「何度も読まされる」昔話の力 三びきのやぎのがらがらどん
三びきのやぎのがらがらどん

北欧民話 マーシャ・ブラウン/絵
瀬田貞二/訳
福音館書店 ¥1000
ISBN4-8340-0043-5
絵本=読んであげるなら3才くらいから
 店頭で、子どもたちが「あった!あった!これほしい!」と叫んで手にとる絵本の筆頭に挙げられるのが、「三びきのやぎのがらがらどん」です。そして、お母さん方から「その本、何度も読んだじゃない。もっとほかの本をさがそうよ」と言われるのも、一番多いかもしれません。
■ 「トロル」を木っ端みじん ■
 昔、あるところに、名前はどれも「がらがらどん」という、三びきのやぎがいました。山の草場へ行きたいのですが、登る途中の谷川に、気味の悪いトロルが住んでいる橋があって、そこを渡らなければなりません。

 一番ちびやぎの「がらがらどん」はおずおずと、二番目のやぎは少し余裕をもってやり過ごし、大きいやぎの「がらがらどん」は正面から立ちむかって、トロルを木っ端みじんにしてしまいます。無事、草場にたどり着いた三びきのやぎは、たっぷりと草にありつき、歩いて帰るのもやっとのことだった、というお話です。
■ 仕草、反応に驚き ■
 今から、十五、六年も前、ある施設のお子さんにまとめて本を貸し出していたことがあります。時期が来てお返しいただく時に、この「三びきのやぎのがらがらどん」だけが見つかりません。しばらくして、あるお子さんのたんすの引き出しの底から見つかったことがありました。どうしても自分のものにしたかったらしいのです。

 また、ある小学校で、前任の先生からの引継ぎで「テレビにも絵本にも、全く興味を示さない」と言われた知的障害のお子さんに、新任の先生が、この絵本を読んであげたところ、それからその本を手放さなくなったそうです。先生がトイレに行って帰ってくると、憎っくきトロルを足で踏んづけていたり、ある時はちびやぎのところへ先生の手を持っていって、「なでろ」という仕草をしたり、その反応ぶりに驚かされた話も伺いました。

 この絵本に関してのエピソードは、このほかにも、「一日に何度も何度も読まされてうんざり」という苦情(?)など、枚挙にいとまがありません。
■ 真剣な子どもたちの目 ■
 大人の目から見ると、「がらがらどん」がトロルの目の玉を串刺しにし、肉も骨も木っ端みじんにして、谷川に突き落とすなど、「どうも残酷でいただけない」と、ややもすると誤解を招くようです。昔話にはよくあることですが、この場合、それを乗越えていかなければ生きていけない障害の象徴がトロルなのであって、大人の考える殺し合いとは根本的に違うようです。

 観念的に物事をとらえがちな大人にはどうしてもそのところが分かりにくい。でも、幼い子どもたちは何度も読んでもらうことによって、「がらがらどん」とともに必死に日々の障害と闘って一つ一つ自信をつけているのでしょう。どうぞ、読んでもらっているときの子どもたちの真剣な目をご覧ください。大人から見れば何でもないものでも、はじめて見る子どもにとっては得体の知れぬトロルになりうることは、我が家のネコを見て、怖がって泣き叫ぶお子さんの様子でもわかります。

 最近、近所の畑に飼ってあるやぎをしみじみと眺めながら、やぎの特徴を的確にとらえた挿絵をかいた、マーシャ・ブラウンのデッサン力に舌を巻きました。昔話の力に、優れた挿絵の魅力が加わって、子どもにとってなくてはならない作品の一つになっています。
執筆 小宮楠緒