不思議の国のアリス
 この題名を知らない方はまず、いらっしゃらないと思います。ところが、この作品をディズニーの漫画などではなく、ちゃんとした翻訳で読んでいるお子さんは、案外少ないのではないでしょうか?

●わらいころげたアリスのセミナー●
 十数年前、山本まつよさんのセミナーで、この作品をじっくり読んで、はじめて、おなかを抱えて笑いました。一人で読んだ時は全く笑えなかったのに・・・。同行された小学校のまじめな先生も、はじめは「一体どこが面白いのでしょうね?」とおっしゃっていたのですが、いつの間にかクックッと笑っていらっしゃったのを覚えています。

 アリスは、お姉さんと一緒に、草の茂った土手に座っていました。お姉さんの読んでいる挿絵のない本をのぞきこんだり、「ヒナギクで首飾りを作る楽しさと、そのためにわざわざ立ちあがってヒナギクをつかむやっかいさと、どっちが大きいかしら」などと考えているうちに、暑さのせいで眠ってしまい、夢の中へ入っていってしまうのです。

 奇想天外、荒唐無稽などと、いろいろ言葉を並べてみても、この不思議な魅力を表現することはできません。一見、荒唐無稽なようで、実際にこんな事が起きても決しておかしいと思わせない、説得力は、「夢」という虚構の世界を借りて、見事に現実の世界を描いているからでしょうか。

●ルイス・キャロルは数学者●
 たとえば「アオムシの助言」、「にせ海亀の身の上話」などで、アオムシやにせ海亀との対話など、実は私も話が全く通じないという似たような体験をしたことがあって、「うんうん、そんなことあるある」と頷いたものです。
 
 この作品を書いたルイス・キャロルは、実は本名をチャールズ・ラトウィッジ・ドジソンという、オックスフォード大学の数学の先生です。そういえばどことなく、緻密に計算しつくされた話運びは、難しい数学の問題をすらすらと解いていく快感に通じるものがある、などというと穿ちすぎでしょうか。

 それにしても、数学の先生が、これだけのしゃれや冗談を駆使して、教訓の世界を見事に打ち破ったと言うことは大変うれしいことですし、それにもまして、「こんな先生だったら、私の算数嫌いもここまでひどくならずにすんだのに」などと、能力を棚上げしてみたりしたくなります。

●まず肩の力を抜いて●
 「不思議の国のアリス」に続き「鏡の国のアリス」を書いたルイス・キャロルの功績は、子どもの本の流れを変えるという意味で、大変大きかったと言われます。
 
 何事も教訓的に考える癖のついてしまっている大人は、まず、ゆったりと肩の力を抜いて、余計な雑念を取り払って掛かりましょう。理屈で考えようなどとすると、せっかくの面白さがわからずじまいになるおそれ大です。
(執筆 小宮楠緒 2000年10月)
不思議の国のアリス

ルイス・キャロル 作
脇 明子 訳
岩波少年文庫 ¥672
ISBN4-00-114047-0

読み物=小学高学年から