心の動き手に取るように 「くんちゃん」シリーズ
くんちゃんのだいりょこう


ドロシー・マリノ/作
石井桃子/訳
岩波書店 ¥1000
ISBN4-00-110591-8
絵本=4・5才から
くんちゃんのはじめての
がっこう
他シリーズ5冊

ドロシー・マリノ/作
まさきるりこ/訳
ペンギン社 ¥950
ISBN4-89274-020-9
 アメリカ・オレゴン州生まれのドロシー・マリノの作品に、「くんちゃんのだいりょこう」という絵本があります。冬になって、南の島へ渡って行く小鳥たちを見て、くんちゃんは自分も行きたいと思います。ここでお父さんは「何をばかなことを」ではなくて、「やらせてみなさい」とお母さんに言うのです。

■ 温かいまなざし ■
 張り切って出かけたくんちゃんは、途中で、お母さんにお別れのキスをしてこなかったことを思い出して飛んで帰ります。その後も小鳥たちを見る双眼鏡がいると思ったり、湖を見て釣りざおがいると思ったりして、行ったり来たり。そのうちに疲れてしまって、ひと眠りするためにベッドにもぐり込んでしまいます。

 「くんちゃんがかえってきたようだね」
 「かえってきました」
 「みなみへわたっていかないとおもいますよ」
 「なに、くんちゃんはこれからふゆじゅうぐっすりねむるよ」

 お父さんとお母さんの温かい会話の中で、くんちゃんも、それを読んでもらっている子どもたちも、幸せな眠りに入っていく、そんな絵本です。

 
■ 笑顔にニンマリ ■
 「くんちゃんのはじめてのがっこう」も、新入生の気持ちがよく描かれた本です。入学の日に、はじめて学校へ行ったくんちゃんは、お母さんが帰ってしまった後、上級生が黒板に字を書いたり、算数の計算をするのを見て不安になり、突然教室を飛び出してしまいます。

 窓の外からのぞいていたところを、さりげなく教室に誘い込まれたくんちゃんは、翌朝庭に出て、ヒマワリを腕いっぱい摘むと、「これ、がっこうへもっていって せんせいにあげるんだ」と、はずんだ声を上げます。それまで心の動きが、手に取るように描かれていて、読み終えた後、何とも言えない満足感が残ります。

 昨年の秋、ある小学校の子どもたち九十人にこの絵本を読んであげたことがあります。多人数だけに、心配だったのですが、読み終えたときの子どもたちの笑顔と、満足そうなため息に、こちらも本を閉じながら、思わずニンマリとしてしまいました。


■ 見る目の確かさ ■
 大人から見ればどうということもない日常も、子どもにしてみれば、いろいろな発見や驚きに満ちているということがドロシー・マリノの絵本を読むとよくわかります。このような子どもの日常を自然に描くことは、簡単なようで、実は大変難しいことのようです。

 この「くんちゃん」シリーズは、全部で七冊あって、一冊読んでもらった子どもたちが、次々と手を伸ばします。子どもの日常をしっかりととらえたドロシー・マリノの子どもを見る目の確かさと温かさを、子どもたちがどこかで感じとるからでしょう。

 子どもを心の底から満足させる作品が、それほどたくさんあるわけではありません。そして、このような絵本があまり知られていないことが、とても残念です。
執筆 小宮楠緒