「もりのなか」自然と一体化することの喜び
●色つきだった?「もりのなか」
 「もりのなか」という絵本はご存知の方も多いと思います。先日、子どもの頃にこの絵本が大好きだったと言う若いおかあさんが、なつかし気に手にとって、「あら、これは昔、色がついていましたよね?」とおっしゃいました。「これはもともとモノクロの絵本ですよ」と申し上げたのですが、どうしても納得のいかない様子でした。

●子どもの想像力
 子どもの頃大きく見えたものが、大人になってみるとそうでもなかったり、広かった校庭が、狭く見えたりという経験は、どなたにもおありのことと思います。私が、大好きだった絵本に、同じマリー・ホール・エッツの「海のおばけオーリー」というのがあります。

 赤ちゃんアザラシのオーリーがお母さんにはぐれ、再会するまでの旅が果てしなく長く感じられたのを覚えています。大人になって読んでみると「なんだ、こんなものか」と思うのですが、子どもの私にとって、「いつ会えるのだろう」と心配のあまり、長い長い旅に思えたのでしょう。

 子どもの感性や、想像力のすごさについては何度も驚いたことありますが、時間や空間の長さや広さに対してばかりではなく、モノクロのものに、その想像力で色をつけてしまうほどのものだということを、あらためて知らされた出来事でした。

●自然との一体感
 「もりのなか」は、訳者の間崎ルリ子さんが、ニューヨークの図書館で働いていらっしゃった時、子どもたちが目と身体に深い喜びをみなぎらせて聞き入るようすに感動され、ぜひ、日本の子どもたちにも、と翻訳されたとうかがいました。

 作者のマリー・ホール・エッツは、最初の夫と数週間で死別、医療ミスにより自分自身も健康を害します。2度目の結婚をして、シカゴ郊外のラヴィニアの森に移り住みますが、今度は、夫が不治の病を宣告され、看病と、自身の闘病という苛酷な生活を強いられるのです。

 そのような状況のもとで描かれた「もりのなか」が少しも淋しさや悲しさを感じさせず、むしろ暖かくユーモラスなのは、子どものころから自然に親しんできたエッツが、自分と夫の死を見つめる中で、自然と一体化することによって、永遠の命を信じることができたからではないか、と間崎さんはおっしゃっています。

 だからこそ、この絵本を読んでもらう子どもたちは、森や動物という自然と一体化し、そこから大きなエネルギーと喜びを吸い取ることができるのでしょう。その他の「わたしとあそんで」や「ジルベルトとかぜ」などの絵本を読んでも、エッツが動物を含めた自然と、いかに親しみ、深く関わってきたかがよくわかります。

 押さえた色調で描かれたエッツの絵本は、「子どもはケバケバしい色つきでなければ喜ばない」という大人の思いこみを見事に一蹴してくれるのです。

(執筆 小宮楠緒 2000年3月)