読む人の心に残る深い満足感 ムギと王さま
ムギと王さま [ファージョン作品集3]

エリナー・ファージョン/作
石井桃子/訳
岩波書店 ¥2600
ISBN4-00-1150830-2
読物=小学校中学年から
 「ムギと王さま」は「ファージョン作品集」の中の一冊です。かなり分厚い本で、子どもたちからつい敬遠されがちですが、実はとても読みやすい短編集なのです。その中で、私の大好きな作品の一つに「ボタンインコ」があります。
■ インコがくれたおみくじ ■
 スーザンは、つきあたりに学校のある通りで、靴ひもなどを売っています。向かい側にはダイナばあさんが、ボタンインコの入った籠をおいて、おみくじを売っています。通りすがりの子どもたちは一ペニーをさしだして籠の中に手を入れます。すると、その指に止まって出てきたボタンインコが、そばの籠から一本の色付きのおみくじを引き抜いてくれるのです。スーザンは自分と同じくらいの子どもたちが「王さまと結婚する」、「遠くへ旅行する」、「何をしても成功する」などと騒いでいるのを、からだ中を耳にして聞いていました。スーザンはおみくじを買う余分な一ペニーなんか持っていたためしがないのです。

 ある日、ダイナばあさんが居眠りをしているとき、ボタンインコの籠の戸がほんの少し開いて、一羽が飛び出してしまいました。それをやせ猫が狙っています。スーザンは飛び上がり、あぶないところでインコを救います。その時、インコはスーザンの指にピョンと飛び乗りました。これ以上の喜びはないと思ったのに、よいことはもっとありました。インコは一本のおみくじを引き抜いてスーザンにくれたのです。スーザンは一生、そのおみくじを持っていました。字が読めないスーザンは中に何が書いてあるのか分かりませんでした。でもそれは、濃いピンクの運勢でした。しかも、それは買ったのではなく、授かったのです。
■ 運命の出会い ■
 本屋を始めて間もないところ、この本に出会いました。当時の苦しかった歳月を闇夜に例えると、一段と輝く星の光に出会ったような思いでした。この作品集は他に類を見ない魅力的なもので、アンデルセン大賞をはじめ、いろいろな賞をひとり占めにしたのもうなづけます。寓話、子どもの現実の生活を基にしたお話、風刺を交えたこっけいなもの、昔話風のもの。広い領域にわたるお話がひとつに溶け合って、すぐれた音楽のような流れになり、読む人の心に深い満足感と余韻を残してくれます。子どもの本屋をしていなければ、このような本に出会わなかっただろうと思うとき、スーザンのように授かった運命に感謝しないではいられません。
執筆 小宮楠緒