ご苦労様、ピーターくん
 近くの小学校で、次々とピーターラビットのシリーズを読んであげていらっしゃる先生が、子どもたちの反応を楽しげに話してくださいました。

 実は、我が家にもまさにピーターラビットを彷彿とさせるウサギがいました。5年ほど前、知り合いの方からいただいた白黒のパンダウサギです。さっそく、ピーターと名づけ、金網でかなり広い柵を作って放したところ、10分もしないうちにどこからともなく、脱走して、網の外で悠々と草を食べているではありませんか。その後も色々とやってみたのですが、どうしてもだめなので、放し飼いにしていました。

●わかりました、マクレガーさんの気持ち●
 このピーターくん、土手に深い穴を掘って行方不明になるかと思えば、どういう訳か、決まった時間に帰ってきては固形の餌をねだるし、裏の畑のほうで「ピーター!」と呼ぶと、どこからともなく現われて、畑仕事のおともをするというように、気ままに暮らしていました。

 あわよくばこのまま、と思っていたのですが、マクレガーさんの農場ならぬ、お隣の山田さんちの牧場の花を失敬するようになったので、これはいけないと、上下左右を金網で囲った空中小屋に入れられるはめになったのです。

 それでも、はじめのころは、時々は外に出して、猫のしっぽなと遊ばせたりしていたのですが、一旦外に出ようものなら捕まえるのが大変で、釣り用の大きな網を片手にマクレガーさんによろしく、大捕物を演じなければならない始末。犬を飼ったこともあって、この頃は小屋に入れっぱなしでした。

●「ごめんなさい、失礼しました」●
 この一ヶ月ほど、老衰で抜け毛がひどく、食欲もなくなって、好物の葛の葉に見向きもしなくなったので、いろいろ与えてみた挙句、笹の葉やとれたてのキャベツなどのほに、なんと柿の実が好きだということがわかりました。あんなに、好物だった固形の餌もほとんど食べなくなり、夜、部屋に運び込んで、以前はあまり食べなかったニンジンを薄く切って出すとゆっくり、それでもおいしそうに食べました。

 翌朝、小屋をのぞいて「ピーター!」と声をかけたのですが、いつもは足音を聞いただけで反応する、あの長い耳がピクリとも動きません。すでに息絶えていたのです。半ば閉じた目からは朝露のようなきれいな涙が一粒こぼれていました。

 その日、めずらしく朝早くから一人の女性のお客さまが見えていて、ピーターを抱えたまま思わずべそをかいている私に、慰めの言葉をかけてくださいました。「実は私も、主人の四十九日を終えたばかりで・・・。」ろくに言葉も出ない私たちに「ごめんなさい、失礼しました。」とそそくさとお帰りになりましたが、こちらこそ「ごめんなさい、本当に失礼いたしました。」
(執筆 小宮楠緒 2000年12月)