ともだち


西日本新聞・熊本県版に連載しておりました(2006.8〜2008.3)
本はともだち」のコーナー。

竹とんぼ・お薦めの児童書を紹介しています。

執筆:小宮 楠緒


連載は2008年3月にて終了いたしました。
ご愛読ありがとうございました。

赤ちゃんのはなし 2008.3.26

 命包み込む温かさ

 子どもが成長する過程で、自分の誕生の不思議に気づいて、どうやって生まれてきたのか、必ず訊ねることがあるでしょう。そして、ある程度になると、自分なんか産んでくれなければよかったのに、などと一度や二度は親を困らせるものです。

 作者のマリー・ホール・エッツは、この絵本を、目にも見えないところから、まったく独自の生命が生まれ成長していくさまを、正確に、しかも単なる科学読み物としてではなく、命を包み込むような暖かい作品に仕上げています。

 若者の自殺など、目をおおうニュースを、毎日のように見聞きします。そんなとき、「子どもの頃この絵本を読んでいたら―」とつい思ってしまいます。

 人の誕生は、偶然に見えて、実は選び抜かれた必然の命で、自分はこの世にたった一人しかいないのですから、与えられて命を全うしなければならないということを、理屈で理解させようとしても、なかなかむずかしいようです。

 この絵本は、心の底からそのことを感じさせてくれる、すばらしい絵本です。(おわり)





赤ちゃんのはなし
マリー・ホール・エッツ作
坪井郁美訳
福音館書店
1,470
小学校中学年から


ちいさいおうち 2008.3.19

 花咲く丘に立つ一軒

 ヒナギクやリンゴの花咲く丘に建っていた一軒の「ちいさいおうち」。時が経つにつれて、道路ができ、車がとおるようになり、まわりがどんどんと変わっていきます。そして、ついに、大きなビルに囲まれ、地下鉄などの騒音と、ほこりだらけの空気の真っただ中に取り残されます。その「ちいさいおうち」はもとの持ち主の孫の孫の孫に発見され新しい土地に移されます。そこは、ヒナギクやリンゴの花が咲いている丘でした。

 あまりにも有名なこの絵本、日本で翻訳出版されてから、かれこれ45年にもなります。

 15年前わたしたちは、市内の水前寺から、ここ阿蘇郡の西原村に引っ越してきたとき、まさにこの「ちいさいおうち」と同じような気持ちを味わいました。そして、いまでも、この気持ちは変わりません。

 「ちいさいおうちは、もう二どと まちにすみたいなどと おもうことはないでしょう― ちいさいおうちのうえでは ほしがまたたき― おつきさまもでました― はるです― いなかでは、なにもかもが たいへん しずかでした。」というこのお話の終わりが、そのまま、今の私のことを言ってくれている気がするのです。





ちいさいおうち
バージニア・リー・バートン作
いしいももこ訳
岩波書店
1,680
4歳くらいから
パンやのくまさん 2008.3.12

 働く喜びと充実感を

 縦十五センチ、横二十センチほどの小型のこの絵本、当店のロングセラーです。

 パンやのくまさんはとても早く起きます。まず、かまどに火をつけてじゅうぶん熱くなるのを待ちながら、朝いちばんのお茶を飲みます。それから、焼き上げたパンを町へ車で売りに出かけ、さらには店を開けてお客を待ちます。

 このようにパンやのくまさんの一日が淡々と描かれているのですが、パンの生地がふくらむ間に、朝食をとるとか、寝る前には、金勘定をするなど、手抜きのないしっかりとしたお話で、働く喜びと充実感を子どもにもわかるように描いています。そこが、この絵本の人気の秘密かもしれません。


 最後は、いそがしい一日が終って、すっかりくたびれた、くまさんは、目覚まし時計をかけると、小さいベッドにはいって、すぐに、ぐっすり眠ってしまいます。

 子どもたちにとっては、仕事とも言える昼間の遊びを終え、絵本を読んでもらいながら、このくまさんのように、すやすやと眠ってほしいと思わずにはいられません。

ほかに、せきたんや、うえきや、ゆうびんや、などのシリーズがあります。




パンやのくまさん
フィービとセルビ・ウォージントン作
まさきるりこ訳
福音館書店
945円
3歳くらいから
こねこのぴっち 2008.3.5

 母の思い出に重なり

 子どものころ、高熱をだして一晩うなされ続けた翌朝、母が、手作りのマスクを手渡してくれました。風邪を引きかけのころ、私がねだったのでしょう。真っ白のガーゼを重ねたものに、適当なゴムがなかったのか、耳に懸けるところは何本もの白い木綿糸をていねいに撚りあわせて作られていました。戦後の苦しい時代、四人の子どもをかかえて息をつく暇もなかった母が、「私のためだけにつくってくれた」ことがうれしくて、いまだに鮮明におぼえています。

 こねこのぴっちは、好奇心旺盛なあまり、ウサギ小屋で一夜を過ごし、フクロウやキツネなどがあらわれて、さんざん怖い思いをします。夜中に鳴き続けて、ようやく、りぜっとおばあさんに助けられますが、重い病気になってしまいます。そこでおばあさんは、体をふいて、暖かくくるんでやり、やぎのミルクを与えます。翌日はいろんな動物が心配してお見舞いに訪れ、それぞれ、ぴっちのために奔走します。子どものころから大好きだったこの絵本、あの時の母の手作りマスクと、いつも重なるのです。




こねこのぴっち
ハンス・フィッシャー作
石井桃子訳
岩波書店
1,575円
4歳くらいから
まぼろしの白馬 2008.2.27

 印象深い植物の名前

 両親をなくしたマリアは、家庭教師のヘリオトロープ先生と一緒に、いとこのベンジャミン卿のもとにやってきます。そして、ベンジャミン卿の館にまつわる暗い謎を解き、もちまえの快活な性格でその生活を一変させるお話です。

 何度読んでも楽しめるこのお話、私にとって印象深いのは、この物語に出てくる、いろいろな植物の名前です。ピョンピョン跳びはねるように生え広がるペリウィンクル(ツルニチニチソウ)は、ベンジャミン卿からマリアへプレゼントされた小馬の名前。ちょっと神経質な家庭教師の名前ヘリオトロープは、香りがいいけれども気むずかしい花。そして、ピンクの花がきらいだったマリアの気持ちを一変させる、サーモンピンクのゼラニウムは、この物語の大きなカギを握る花です。きっとこの作者は植物が大好きだったのでしょう。


 さて、我が家では、ペリウィンクルが、ヤマモミジの下で跳ね回ろうと春を待ちかね、孫が卒園記念に持ち帰ったピンクのゼラニウムは窓辺で日向ぼっこ、気むずかしいヘリオトロープさんとは相性が合わず栽培を断念しました。




エリザベス・グージ作
石井桃子訳
岩波書店
756

小学校中学年から
ひとまねこざるときいろいぼうし 2008.2.20

 大型ならではの魅力

 「岩波子どもの本」という小型絵本のシリーズのなかにあるこの作品、五十四年ほど子どもたちを楽しませてきました。いまさら、ご紹介することもないのかなと思うのですが、いまから二十五年ほど前に出版された、この大型の絵本の存在を、案外、ご存じないお子さんが多いような気がして、今回取り上げました。

 もともと原書はこの大型絵本の大きさに近いようで、ゆったりとした余白や、絵の大きさなどから、子どもたちの受けるお話の印象がずいぶん違うようです。小型本とはかなり値段が違うため、こちらのほうにはなかなか手が出ないのが現実ですが、迷われている場合は、こちらの方をお薦めします。その時の殺し文句、おかあさんには「一回の外食やめて、この一冊」おとうさんには「おとうさん、その一杯で、この一冊」といきたいのですが、気の弱い私は、なかなかそうも言えません。

 こざるの好奇心と行動力は、まさに子どもそのもので、だからこそ、時を越えて読み継がれてきたのでしょう。全部で5冊あって、好みが分かれるのも興味があります。





H・A・レイ作
光吉夏弥訳
岩波書店
1,491円

4歳くらいから
風にのってきたメアリー・ポピンズ 2008.2.13

 次々と起きる出来事

 児童文学の宝庫ともいえるイギリス児童文学の中で、肝心な作品を紹介していませんでした。作品を読んだことのない子どもたちは大勢いても、その名前を知らない子どもは少ないのではないでしょうか?この際、そのメアリー・ポピンズとは、どういう人物か、ぜひ皆さんにも知ってほしいと思います。

 いつもこの欄で作品を紹介することの難しさを痛感してきました。結局は、読んでもらうしかないのだから、読んでみたくなるように書かねばと思うのですが、すばらしい作品を前に私の力ではどうしようもないと降参してしまいたくなるのです。


 それにしても、このメアリー・ポピンズ決して優しいわけでもなく、ただひたすら子どもたちのためだけに行動するのでもなく、ちゃんと自分の楽しみももっている。こんな個性的な、突拍子もなく、それでいて、魅力のある人物を描けるトラバースという人はどんな人なのでしょう。人物だけではなく、次々と起きるできごとは、かつて、だれの心にも確かにあった、願望や夢をすっかり満足させてくれます。(続編があります)





P・L・トラバース作
林容吉訳
岩波書店
756
小学校中学年から

リゴーニ・ステルンの動物記 2008.2.8

 空想の世界 膨らむ本

 お客さまから「雷鳥の森」(みすず書房)という本の注文を受け調べているうちに同じ著者のこの作品が目につきました。そういえば、「子どもと本」という季刊誌にこの作品が取り上げてあって気になりながらまだ読んでいなかったことを思い出しました。

 日本の読者へのメッセージで、作者は「本来子どもは自由に遊びを作り出し空想の翼をはばたかせる力があるのに、例えばテレビなどの刺激的媒体のおしきせの娯楽や時間割でその大切な時間を奪われているのではないか」と憂えています。まったく同感です。

 この作品は、北イタリアを舞台にくりひろげられるいろいろな動物たちと人間の物語ですが、本来自然界には、国境などないのに、人間の心ない、戦争などによって、潰え去っていくものの重さが、ところどころに垣間見えます。

 こう書くと、何だか暗い作品のように勘違いされるかもしれませんが、決してそうではありません。読んだ後、メッセージどおり、せまい日常から解き放たれたような気がします。子どもむけではありませんが、「雷鳥の森」も読もうと決心しました。





リゴーニ・ステルン作
志村啓子・訳
福音館書店
1,470円
小学校高学年から

だいくとおにろく 2008.1.30

 話引き立つ絵が魅力

 子どもたち、とくに就学年前後の子どもたちは、昔話が大好きです。我が家の六歳になる孫も例外ではありません。けれども、本来語り伝えることによって、みがかれてきたお話が、いいかげんに変えられたり、下手な絵をつけられたりすると、昔話本来の魅力がそこなわれてしまいます。

 昔話絵本の中で絵のすばらしさが、そのお話を引き立てている数少ない絵本の一冊が、この作品です。立派な橋を架けてもらうかわりに、鬼に目玉をやると約束した大工。ただし鬼の名前を当てたらゆるしてやるというお話は、「イギリスとアイルランドの昔話」(福音館書店刊)のなかの「トム・ティット・トット」とおなじ名あてのお話です。ハラハラドキドキのこんなお話が、よその国にもあるということに、なんだか、とてもほっとするのです。

 私自身は、どちらかというと、昔話は苦手だと思い込んでいました。けれどもよくよく考えると、いろんな形で昔話の力は、私自身の中に入り込んでいたのだと、この頃思います。できることなら、心のやわらかいときに極上の昔話をと思わずにいられません。





松居直・再話
赤羽末吉・絵
福音館書店
840
4歳くらいから

マリールイズいえでする 2008.1.23

 反抗期の娘と母の愛

 まもなく七歳になる孫が、ときどき母親にくってかかるようになりました。そろそろ、本格的な第一反抗期かもしれません。三人の男の子をまがりなりにも育てた身から見れば、まだまだ、かわいいものです。

 この絵本の主人公、マングースのマリールイズもちょうど第一の反抗期でしょうか。さんざん悪さをして、おかあさんにお尻をぶたれます。怒ったマリールイズは「どこへいくの?もうすぐおひるごはんよ」というおかあさんに「あたしいえでするの。おかあさんは、もう、あたしのこときらいでしょ。あたらしいおかあさんを、さがしにいくわ」といって家出をします。おかあさんは、そう簡単に新しいおかあさんは見つからないからといって、おなかがすかないように、サンドイッチ作ってくれます。おかあさんのこの余裕。世のおかあさんがたもぜひ見習ってほしいものです。

 日頃から、がっちりと子どもとの意思の疎通をとっているおかあさんであれば、こんなときあわてません。あんのじょう、いろんな動物から養子縁組(?)を断られたマリールイズは最終的には、おかあさんのもとへ―。もちろんおかあさんはしっかりとうけとめるのです。





N・S・カールソン作
星川菜津代訳
童話館出版
1,470円
4歳くらいから
小さい牛追い 2008.1.16

 思わず笑いが出て・・・

 いつか、二男が、通勤電車の中でこの作品を読んでいて、思わず「クックッ」と笑ったら、隣の人から変な目で見られたことがあるという話を聞きました。あらためて読んでみると、どうしてこんなにおもしろい作品があるのに気がつかなかったのかとびっくりしました。

 ノルウェーの農場に住む4人の兄妹が村中の牛をあずかって夏のあいだ山の牧場ですごします。自然の中で、のびのびと遊び働く子どもたちの日常は、今の子どもたちの日常とはかけはなれてはいるのですが、子どもたちが、本来持っているものは、この作品の子どもたちと決して変わらないはずだと確信するのです。

 そして、同じ作品でも、翻訳の違いで味わい深くもなれば、つまらなくもなるのではないかいうことを強く感じます。お気づきの方もいらっしゃると思いますが、この欄で取り上げた作品で、断然多いのが石井桃子さんの翻訳です。

 昨年百歳になられ、現役を退かれたとはいえ、残されたすばらしい仕事の数々。おかげで、こんな作品に出会える子どもたちの幸せを思わずにはいられません。続編「牛追いの冬」もあります。





マリー・ハムンズン作
石井桃子訳
岩波書店
714円

小学校中学年から
はたらきもののじょせつしゃ けいてぃー 2008.1.9


 人を助ける喜び感じて

 大晦日から急に冷え込んで、雪になり、庭の木々は、うっすらと雪化粧をしました。孫たちは大喜びで、雪をかき集めて小さなゆきだるまをつくりました。

北国では、こんな寒さなどものの数ではないのだと思うのですが、暖かさに慣れっこになっていた身には、急な冷え込みと、暮れの大掃除とが重なり厳しい年末年始でした。

この絵本の主人公けいてぃーは、とても強い、キャタピラのついているトラクターです。いろんな仕事ができますが、一番の仕事はなんといっても雪かきの仕事です。ある日雪が降り始めました。そして10センチ積もりました。雪かきトラックが出てゆきましたが、まだ、けいてぃーの出番ではありません。やがて、25センチになって、まだまだ、降り止みそうにありません。いよいよ出番です。やがて二階の窓まで積もった雪に、とうとう雪かきトラックも動けなくなってしまいます。これからが、けいてぃーの力の見せどころです。

本当の積雪を知らない子どもたちも、「ちゃっ!ちゃっ!ちゃっ!」とけいてぃーとともに、全力を出して、困っている人たちを助ける喜びを、きっと感じるにちがいありません。




バージニア・リー・バートン作
いしいももこ訳
福音館書店
1,260円

4歳くらいから
絵本
クリスマス・キャロル

 聖夜、心に染みる本

 この時期、クリスマスに関する本のお問い合わせにそなえて、いくつかの作品を読みました。この作品は、たしか過去に読んだことがあったのですが、実は本当には読んでいなかったということがわかりました。つまり、活字は追っかけたのかもしれませんが、心には、届いていなかったようです。

 こんどは届きました。まことに勝手ですが、今では「これを読まずしてクリスマスの本を語るなかれ」と言いたい気分です。

クリスマスの前夜、けちで気難しいスクルージは、三人の幽霊から、自分の過去と現在と未来を見せられます。その結果、スクルージの冷たい心が少しずつ氷解していくようすが、自然に描かれていています。随所にユーモアがちりばめてあって、一気に読め、しかも、スクルージとともに心の氷が解けていくような気がしました。

今年もいろいろなことがありました。このご時勢、外に向けての不満はきりがありません。このような作品を読み直すことで、自身の心の内から変えていく方法もあるのかもしれません。




クリスマス・キャロル
ディケンズ作
脇明子訳
岩波書店
672
読み物

小学校高学年から
かえでがおか農場のいちねん

 動物の世界 生き生き

子どもたちは図鑑が大好きです。とくに男の子はすぐに図鑑に手を伸ばします。「同じようなものを何冊も持っているのに―」と嘆かれるお母さん方も少なくありません。

実は、子どもたちの気持ちがよくわかるのです。ここ数年すっかり庭仕事にはまってしまった私は、園芸の本を見るとあれもこれも欲しくなり、寝室の本棚やベッドのまわりはその手の本であふれています。同じ植物でも、解説がちがったり見た目がちがったりして、あれもこれもほしくなるのです。おかげで、自分で言うのもはばかられますが、今やかなりの植物通となりました。世間から、薔薇の生き字引と称されていらっしゃる、駒場薔薇園の老婦人に「お詳しいですね」と言われて、すっかり気を良くしております。

それはさておき、お困りのお母さん方に、図鑑脱出のための本を探さなければなりません。動物好きのお子さんにお薦めする一冊がこの絵本です。農場の四季を通してのいろいろな動物のようすが生き生きと描かれていて、図鑑などではうかがい知れない、動物たちの奥深い世界をかいま見せてくれるはずです。ながめるだけなら3歳くらいから。




アリス&マーティン・プロベンセン作
きしだえりこ訳
ほるぷ出版
1,890円

4歳くらいから
絵本
赤い目のドラゴン

 心に深く染みる作品

リンドグレーンの生誕百年を記念して、今また、彼女の作品が注目されています。いつかこの欄で紹介した「やかまし村シリーズ」などもそうですが、あまりいっぱいありすぎて、何を紹介していいか迷ってしまいます。「長くつ下のピッピ」や「ロッタちゃん」などの底抜けに愉快な作品のほかに、ジンと心に沁みる作品もあって、その多才さには驚きます。

この「赤い目のドラゴン」はどちらかというと後者のほうです。学校などでの読み聞かせなどにで、この絵本を読んだお母さん方からは、あまり反応がなかったという声を聞くことがありますが、それは、読んであげる方の観察力の不足ということもあるような気がします。というのも、この作品は、ワッと受けるというものではないからです。

ブタ小屋の隅にある日突然現れた赤い目のドラゴンと二人の子どもたちの出会いから別れまでが、回想の形で描かれていて、いろいろあったけれども、過ぎてしまえば、すべていい思い出だったという、静かに心中深く沁みこんで、忘れられないものを、子どもたちに残してくれるはずだと信じています。




リンドグレーン作
ヤンソン由実子訳
岩波書店
1,470円

5歳くらいから
絵本
あかいはっぱ きいろいはっぱ

 命の循環 緻密に描

いつまでも暑い日が続いて、庭の木々がなかなか紅葉しません。春にむけての庭仕事をしながら、汗を拭き拭き、日差しをさえぎってくれる青々とした繁みを見上げる時、地球温暖化の兆しをいやでも感じてしまいます。

それでも、気がつけば、メグスリノ木や、カエデ花散る里の枝先が、みごとに紅葉をはじめ、ほっとしました。

この絵本の作者は、植物に大変興味があって、とりわけ、ここでとりあげられている、サトウカエデが大好きだったようです。タネから芽が出て育ち、やがて花を咲かせ、タネを風にはこばせるという、長い時を経ての命の循環を描いたものですが、じっくり見たものにしか描けない緻密さに加えて、独特のコラージュという手法で見事に紅葉したサトウカエデを描いています。

 我が家でも、水前寺から移植したヤマモミジの子どもが思わぬところで大きく育ちました。プロペラみたいにくるくるまわるモミジのタネをとばしてみせたら、「ばあちゃんすごい!」と思わぬところで孫に感心されました。





ロイス・エイラト作
阿部日奈子訳
福音館書店
1,470

4歳くらいから
絵本
トムは真夜中の庭で

 深夜の出来事は夢?

 幼い孫たちがごっこ遊びをしています。そばにいる大人には目もくれず、自分たちの世界に没頭しています。かつてはそうだったなあと思い出し、その世界にもどれない自分がちょっと残念です。

 でも、「まてよ!もうちょっとしたらその世界にもどれるのかもしれない」と思ったりもするのです。九十一歳でこの世を去った父が、晩年、うとうとと夢と現実の世界を行ったりきたりしながら、「ああ夢だったのか?いい夢を見ていたのに」となどとつぶやいていました。「夢でもいいじゃない。夢だ現実だとわけなくてもいいんじゃないの?」というと「本当にそうだ!」と頷いていたことを思い出します。

真夜中、古時計が十三時を打って、昼間なかったはずの庭園に誘い出されたトムが出会った不思議な少女ハティ。実はそのハティは、古時計の持ち主バーソロミューおばあさんでした。そのいきさつは読んでのお楽しみとして、彼女の言葉「トム、あんたがわたしぐらいに年になればね、むかしのなかに生きるものさ。むかしを思いだし、むかしの夢を見てね。」の一言に痛く感動しました。そういう年になったのかもしれません。




フィリッパ・ピアス作
高杉一郎訳
岩波書店
1,995円
少年文庫は756円

小学校高学年から
読み物
時の旅人

 見事な表現力に感服

 子どもの頃、いわゆるファンタジーに類するものが苦手でした。子どもの本屋を始めてそうも言っていられず、さまざまな作品を読むうち、ファンタジーとリアリズムの区別などどうでもよくなりました。というよりもむしろ、ファンタジーという手法で現実の枠を取り払わないと描けないものを人は求めているのではないか? という気がしてきました。

病気療養のために母方の古い農場にやってきた少女ペネロピーが16世紀の王位継承をめぐる大事件に巻き込まれるこの物語は、作者アトリーが、生まれて18歳までを過ごした、ダービシャーの田舎を舞台にくりひろげられます。16世紀と現代を行き来して息も継がせぬ物語の展開。得意技の空気のにおいまでも鮮烈に感じさせる表現力で、読む者を文字通り「時の旅人」にせずにはおかない作者の力量にただただ感服します。そして、旅をした読者は、もう読む前の自分ではないことを実感することでしょう。

 この作品は、松野正子訳、岩波少年文庫でも出ています。それぞれの持ち味がありますし、後書きなどもそれぞれですので、読み比べられてみるのもいいかと思います。
 




アリスン・アトリー作
小野章訳
評論社
1680円

中学生くらいから
読み物
たのしい川べ


 子どもが楽しめる本

 過日、猪熊葉子さんの講演会で私の大好きなこの作品をとりあげられると聞いて出かけたのですが、おっちょこちょいの私は時間を勘違いして、講演が終った後の質疑応答の会場に侵入してしまいました。そこでの質問で「『たのしい川べ』のなかでさんざん悪いことをするヒキガエルがどうして罰せられないのか?」というのがありました。当の猪熊さんも一瞬答えに詰まられました。最後までこの作品を読んだ人であれば、こんな疑問などいだくわけがないと思うのですが、考えさせられる出来事でした。

 十日ほど前、三人のお子さんを連れたイギリス人のお父さんが見えました。「ピーターラビット」みたいな本で子どもの頃とても楽しんだ本を探しているとおっしるのですが、そのときは、とうとうわからずお帰り願いました。その夜、主人の「たのしい川べじゃないの?」の一言にピンときてお電話をするとやっぱりこの本だったのです。

 子どもたちは何の抵抗もなく楽しめるのに、ややもすると枝葉末節にとらわれて楽しめなくなる大人。やはり、子どもの頃に出合わせてやりたいといました。




ケネス・グレアム作 
石井桃子訳
岩波書店
2,100円
少年文庫は798円
読んであげるなら小学校中学年
読み物
ドリトル先生アフリカゆき


 出版50年、あせぬ面白さ

 世の中には何にもしていない、あるいは、役に立たないように見えて、じつは、すばらしいことをしている人がいるものです。ドリトル先生もそうで、ドゥーリットルつまりたいしたこともしない先生という意味からきているらしいのですが、どっこい、このドリトル先生、このうえないすばらしいことをやってのけています。その証拠に出版後五十年以上たっても子どもたちを味方につけ、まだまだ、健在なのです。

 作者のロフティングは、「子どもの読み物は、まずおもしろくなくてはいけない。しかし、単におもしろがらせるために媚びることは、大きなまちがいである」と言っています。そして、「子どもの読み物として優れたものは、大人の読み物としても優れたものでなければならない」とも言っているようです。

 出版物の氾濫する中、それにかかわる大人たちにとって耳の痛い話です。小学生の頃、最後まで父に読んでもらって至福のときを過ごした、思い出の作品でもあります。おかげさまで、我が家の犬はドリトル先生の忠犬ジップの名を頂戴しました。どうやら、名前負けしそうで、迷惑がっているようにも見えなくもありません。





ヒュー・ロフティング作
井伏鱒二訳
岩波書店
1,680円

小学校中学年から
読み物
海のおばけ オーリー


 結末は幸福なのだが・・・

 「もりのなか」や「わたしとあそんで」などでおなじみのエッツの作品ですが、コマ割りの地味な絵本で、店ではあまり手に取ってもらえません。

 実は、この絵本、私自身が子どもの頃からある、数少ない絵本で、(当時はもっと小型だったと思いますが)強く印象に残っている絵本です。

 海岸で生まれたアザラシのあかちゃんは、おかあさんが魚を取りに海に入ったすきに水兵に拾われてしまいます。それから、水族館に売られ、やがてそこを逃げ出し、苦労の末やっとおかあさんに出会うまでのお話です。

 子どもの頃は、ハッピーエンドと分かっていても、オーリーに自分を重ねてハラハラしながら、とてつもない長い旅をしたことを思い出します。大人になって読んでみると「あれ!こんなものだった?」と思ってしまい、鈍ってしまった大人の感性にがっかりしました。近年、タマちゃんブームでこの絵本が、再認識されたと聞きます。きっかけはどうであれ、この絵本が子どもたちの手に渡るのはうれしいものです。




マリー・ホール・エッツ作・絵
石井桃子訳
岩波書店
1,470円

小学校低学年から
絵本
ねこのオーランドー 農場をかう

 大判本にのびのびと

 36センチ横26センチの特大絵本です。マーマレード色のねこのオーランドーが、奥さんと三匹の子ねことともに、古い農場を買い求めて、再生するお話です。

表紙の絵からも想像できると思いますが、なんともおおらかで、のびのびとしたオーランドーとその家族の日々のようすが大きな画面いっぱいに描かれていて、こちらも、オーランドーとともに、のどかな農場の生活にどっぷりと浸かっているような気になります。

とはいえ、このオーランドーなかなかのやり手で、牛の乳もしぼれば畑に入用な堆肥の買い付けもやり、どうやら、金勘定もしっかりしているようですし、家族や、農場の動物たちへの目配りも怠りありません。そのせいか、ときどきつかれるようで、ごろりと横になったりして、それもまた、なるほどと納得させられます。

 そして、市場や農場では、動物たちだけでなく人間も働いていて、同等にわたり合うオーランドーのようすに、まったく違和感がないのは作家の力量のなせるわざなのでしょう。最後のページで来る春に向けて計画をめぐらすオーランドーの細い緑の目。やっぱり、ただ者ではありません。





キャスリン・ヘイル作
脇明子訳
童話館出版
2,100
5歳くらいから
絵本
どうながのプレッツェル


 けなげな求愛の物語

 私どもの店でひそかに売れ続けて、うっかりするとすぐなくなってしまう絵本です。

 世界一胴の長いダックスフントのプレッツェルは、コンクールで優勝し、鼻高々です。

ところで、プレッツェルには思いを寄せるめす犬がいます。向かいの家のグレタです。けれども、グレタはふりむいてくれません。ぼくは、「ドッグショーで優勝したんだぞ」と自慢しても、プレゼントの攻勢も効果なし。プレッツェルはがっかりしてしまいます。

ところが、ある日グレタがプレッツェルにもらったボールで遊んでいるうち、工事中の深い穴に落ちてしまいました。そこで、プレッツェルは、もちまえの長い胴をいかしてグレタを助け出します。おかげで、プレッツェルの思いがかなって結婚するのですが、幼い子どもたちでも、プレッツェルの決してあきらめない健気さと、ハッピーエンドに思わずエールを送りたくなるようです。

 文中にないところも、H・A・レイのすてきな挿絵が子どもたち楽しませてくれます。それにしても、賞をもらったことを自慢しても、決して相手を口説けないことを大人も肝に銘ずるべきでしょう。





マーグレット・レイ文
H・A・レイ絵
わたなべしげお訳
福音館書店
1,100円

4歳くらいから
絵本
ばしん!ばん!どかん!

 音を集めた絵本

 お子さん連れのお客さまの中で、あかちゃんを連れた方の割合が半分以上を占めるようです。ちょっと気になるのですが、商売上対応しなければなりません。

破ったり舐めたりの、赤ちゃん絵本は、おもちゃ代わりと承知の上でお買い求めいただくよう、お願いするしかないのですが、今ばかりでなく後々までも楽しめる絵本という贅沢な注文にお応えできる数少ない絵本として取り上げてみました。

あかちゃんが成長する過程でまず興味を示すのは「音」でしょう。この絵本は、乗り物の音、家庭での音、楽器の音、などいろいろな音だけをあつめた絵本です。脈絡なく並べてあるのではなく、ユーモアやストーリー性があって、何度眺めても飽きません。ピーター・スピアのこの作品のこのシリーズにはこのほかに「はやいーおそい たかいーひくい」という絵本もありますがこちらは4歳くらいになったら楽しめそうです。




ピーター・スピア作・絵
わたなべしげお訳
童話館出版
1,575円

1歳半くらいから
おはようスーちゃん

 理想の親子関係描く

 表紙のスーちゃんをごらんください。大きめのエプロンを着けてお茶の道具を運ぶスーちゃん。女の子を育てているおかあさんは、「わが子がスーちゃんだったらいいのに」と思われるでしょうし、子どもたちは「こんなおとうさんやおかあさんだったらいいのに」と思うことでしょう。

 素直でのびのびとして、頬ずりしたくなるほどかわいいスーちゃん。実は、まわりの大人たちの、なにげないようでいて、しっかりと子どもの心を理解した対応あってのことだということがわかります。

我が家にも孫がいますが現実はそうはいきません。それぞれに言い分があって、そうそうスーちゃんやスーちゃんのパパとママにはなれないのです。

けれども、たまには理想の親子関係を本の中でだけでも味わって、お互いひそかに反省するのもいいじゃありませんか。ほやほやの新刊です。




ジョーン・G・ロビンソン作
中川李枝子訳
アリス館
1,260

小学校低学年から
読み物
サクランボたちの幸せの丘

 姉妹の田舎生活描く

8月の終わりに出版されたばかりの新刊です。作者のリンドグレーンは、この欄で紹介したことのある「やかまし村のこどもたち」ほか、子どもたちに根強い人気のある膨大な作品を残しています。

 この作品は、ごく初期の作品で、わけあって両親と田舎暮らしをはじめる双子の姉妹の日常が、目に見えるように生き生きと描かれています。

 優れた多くの作品を差し置いて、あえてこの作品を選んだのは、作者の自伝的作品で、こんな生活の中で、その後の、多彩で奥深い作品を生み出す基礎ともいうべきものが育ったのではないか、と思われたからです。

 作中のバーブロとシャスティンのように、体中を動かして遊んだり働いたりすることによる飢えや渇き、そしてそれを充たす喜びなどを今の子どもたちにも、もう少し体験して欲しいと思うのは私だけでしょうか。





アストリッド・リンドグレーン作
石井登志子訳
徳間書店
1,470円
小学校高学年から
読み物

きみなんかだいきらいさ 2007.8.29
 
 仲良しも時には

 仲良しだったジェームスと主人公はある日ケンカをしてしまいます。仲のいいときは誕生日のパーティーにも呼んでやったし、ガマガエルのいるところも教えてやった。「とっても仲良しだったから、いっしょに水疱瘡にもかかったんだ。だけど、もうジェームスといっしょに水疱瘡にかかるもんか」というところではおもわず吹き出してしまいます。

我が家の二人の孫も、この夏休み、仲良く遊んでいるかと思うとケンカを始め、しばらくするとまた何事もなかったように遊んでいる。とにもかくにもそうぞうしい毎日で、うんざりしていた矢先、二人ともママの郷にお泊りに出かけました。ところが、あんまり静か過ぎて、どこか落ち着かない一夜でした。

ところで主人公は、それだけではおさまらず、ジェームスの家に出かけていって、絶交を言い渡します。でもこのとき、もう、二人の心には仲直りしたいという気持ちがあったのです。「ねえ、ジェームス」「なんだい」この会話だけで、ぶじ仲直り。大人もこんな風にいかないものかとうらやましく思います。




ユードリー作
モーリス・センダック絵
こだまともこ訳
冨山房
630円
3歳くらいから
飼育栽培図鑑 2007.8.22


 手軽で分かり易く

 夏休みもあとわずか、宿題に追われる子どもたちの姿が目に浮かびます。田舎に帰ってカブトムシやクワガタを捕まえた子どもたちもいることでしょう。さて、それらをどうやって飼うのか、都会育ちの若いお父さんお母さんにとって頭の痛いことです。

 我が家も今年で三世代目のカブトムシをはじめ、クワガタ、カメ、金魚などが玄関や居間を占拠しています。新しい生き物がやってくるたびに、孫が素早く持ってくるのが、この飼育栽培図鑑です。四歳くらいから「読んで、読んで」とうるさくせがみました。おかげで幼稚園では昆虫博士と呼ばれ、わからないことを先生から尋ねられることもたびたびでした。パンジーを食べる毛虫を退治しようとすると、「ツマグロヒョウモンの幼虫だ!」と叫び、しかたなくパンジーを分けてやると、みごとに蝶にして見せてくれたりしました。

 犬、猫、鳥、昆虫、魚などの飼育の仕方のほかに、花や野菜の栽培まで、わかりやすいイラスト入りのハンディな図鑑です。店では子どもだけでなく、お父さんやお母さんも買い求められます。他にも冒険図鑑、工作図鑑など全部で九冊あります。




有沢重雄文
月本佳代美絵
福音館書店
1,680円

小学校低学年から
小犬のピピン 2007.8.15


 生と死を分かり易く

 811日、母が93歳でこの世を去りました。冷たくなった頬をなでながら、二度と会えない寂しさと、天寿を全うし、もう何の苦しみもなくなった、母の安らかな眠りに、ホッとした気持ちが、相半ばしました。

「死とは何か?」こんな時いつも思いをめぐらします。そして、年をかさねるにつれて、それは、滅亡や決別ではないことを信じられるような気がするのです。いや、信じたいというのが本音かもしれません。いつまでも心の中で生き続けるものを信じたいのです。

9歳という短い生涯を終えた小犬のピピンは、かわいがってくれたマミーのもとに帰りたいと思い、マミーは、ピピンの帰りをひたすら願います。そして、ある形でその願いがかなうのです。この作品を書いたサトクリフは「太陽の戦士」などの勇壮で、魅力的な歴史物語で知られていますが、この作品では、生と死のテーマを子どもにもわかるように易しく、暖かい筆致で書いています。そして、愛するものを亡くした人々を力づけてくれるこの作者が、今は亡き人だということに、普段は忘れていた不思議を感じるのです。




ローズマリ・サトクリフ作
猪熊葉子訳
岩波書店
1,365円

小学校中学年から
どろんこハリー 2007.7.18


 わんぱくな愛犬描く

 雷が嫌いな我が家の犬ジップは、人の耳には聞こえないほどの音を聞きつけて、避難用の穴掘りを始めます。俵山に記録的な大雨が降り続き、泥沼と化した中での穴掘り作業で、薄茶の毛はすっかり真っ黒になり、見るも哀れな姿になってしまいました。

見かねて息子と二人、大雨の中、ずぶ濡れになりながら、シャンプーをしたのですが、洗っても洗っても真っ黒の泥水。奮闘の末、古いバスタオル数枚で拭き上げたころには、こちらもくたくたでした。その日は店の前の軒下につないでやったら、よほど気持ちが良かったのか、ぐっすりと眠っていました。夜中にまた雷がなりました。嫌な予感的中、翌朝、のぞいてみると、花壇をみごとに掘りあげて、ご当人も真っ黒。

さんざん遊びまわって、どろんこになった犬のハリーが、風呂上りの心地よさに布団の下に隠したブラシの固さも忘れるほど、グッスリと眠る姿を重ねて、これで一件落着と思っていたのですが、そうは問屋が卸さなかったようです。さいわいにしてハリーとちがって、我が家のジップはお風呂大好きです。梅雨が明けたら、また洗ってやりましょう。




ジーン・ジオン作
マーガレット・ブロイ・グレアム絵
わたなべしげお訳
福音館書店
1,155円

3歳くらいから
かしこいビル 2007.7.11


 「褒められる」喜び

 2歳から3歳くらいで、絵本にあまり興味がないお子さんにお薦めして、「とても喜びました」といわれる絵本です。

 今日も2歳の男の子をつれたご夫婦がみえて、迷っていらっしゃいましたので、この絵本を紹介しました。テーブルでお父さんが読んでおあげになると、もう1回もう1回と、たて続けに3回も読んでもらうという、はまりこみようでした。

 おばさんのうちにでかけたメリーに、うっかりおいていかれた人形のビルは、涙の池ができるほど泣くのですが、思い直して起き上がって、走って走って、全速力で走って、メリーに追いつきます。そこで、メリーに「かしこいビル」とほめられるのです。

 大好きな人においていかれた悲しみ、そして頑張った結果、大好きな人にほめられたときのビルの誇らしさと喜びが、幼い子どもの心をしっかり捉えるのでしょう。一見古めかしく見えるこの絵本、本当のところ、どんな思いで味わっているのか、幼い子どもの心の中を、覗いてみたいと、しきりに思います。




ウイリアム・ニコルソン作
まつおかきょうこ・よしだしんいち訳
ペンギン社
1,050円

2歳半くらいから
やぎと少年 2007.7.4


 穏やかさにユーモアも

 ずいぶん以前の話ですが、たのまれて、ある小学校で全生徒5百余人に本を読むという、無謀なことをやったことがあります。1,2年生3.4年生5,6年生と分かれてもらったのですが、図書館にぎゅうぎゅう詰めになっている150人もの子どもたちを前に、さんざん迷ったあげく、この「やぎと少年」の中の「やぎのズラテー」を56年生の時間に読みました。

 この静かなお話が、こどもたちの心に届くかどうか、心配したのですが、読んでいる間、水を打ったようにシンと静まり返り、話が終ると150人の子どもたちの間から、ため息がどっと湧きました。作品の力に驚くと同時に、3時間通しての読み聞かせの疲れも吹っ飛ぶという忘れられない体験でした。

ノーベル文学賞受賞の作者のシンガーはユダヤ人で、第二次世界大戦当時、アメリカにいたおかげで、虐殺をまぬかれました。深く静かな「やぎのズラテー」のほかに、故郷ワルシャワを舞台とする穏やかでユーモアあふれる6つの短編集は、ここしばらく品切れで残念な思いをしていました。久しぶりの再版に、胸が躍りました。




I・B・シンガー作
モーリス・センダック絵
工藤幸雄訳
岩波書店
2,100円

小学校中学年から
チムとゆうかんなせんちょうさん 2007.6.27

 優れた海の冒険小説

 今回ご紹介した『海へ出るつもりじゃなかった』の絵本版と申し上げたらちょっと乱暴かもしれませんが、海や船が大好きなチムの話と『海へ出るつもりじゃなかった』の4人の兄妹との話のワクワクドキドキ感がオーバーラップしてしまいます。海を舞台にくりひろげられる冒険物語という点で、これほど優れた絵本を他に知りません。

船に乗りたくてたまらないチムは、あこがれの船に、こっそりと乗り込み、船が動き出してからみんなの前に姿を現します。怒った船長に、さんざんこき使われますが、大好きな船に乗れたチムは、頑張って、やがて船の人気者になります。ところが大嵐にまきこまれ、船長と船に取り残されてしまったチムは、あわや海のモクズに―。

最後はハッピーエンドと知りつつも、あまりのリアルさに、我が家の孫は山場が来るとスルリといなくなってしまいます。このチムシリーズ、他に10冊あって、2001年に揃って出版されたときは本当にうれしかったのですが、そのうちの5冊が、売切れ次第、出版未定の知らせが届きました。本当に残念です。




エドワード・アーディゾーニ作
せたていじ訳
福音館書店
1,365円
4歳くらいから
海へ出るつもりじゃなかった 2007.6.20


 一気に読み上げる面白さ

この作品はアーサー・ランサム全集(12)のなかの7巻目です。1960年代に出版されたもので、大抵の図書館には揃えてあります。けれども、地味な装丁と400頁を越す分厚さに手に取る人もなく、きれいなままホコリをかぶっているというのが現状のようです。

実は、かく言う私も、1巻目の『ツバメ号とアマゾン号』の途中で頓挫していました。長男の連れ合いの佳代ちゃんが、「おかあさん、これはおもしろいよ」と薦めてくれたのがこの作品でした。いつか読まねばと思っていたこともあって、どれどれと読み始めたのですが、ショボつく老眼も忘れて、あっというまに443頁を読んでしまいました。

海に出るつもりではなかった四人の兄妹がうっかりヨットで海に流され嵐の海を必死の思いで航海するお話ですが、その面白さを説明することはとてもできません。ただ、この作品を読んだ後、私はすぐ1巻目を手に取りこちらも3晩くらいで読んでしまったと申し上げたら少しは想像がつくでしょうか? 全巻読了した我が家の佳代ちゃんは、「次は、『ヤマネコ号の冒険』(3巻目)なんかがいいんじゃない」と言っております。参考のため。




アーサー・ランサム作
神宮輝夫訳
岩波書店
2,520円

小学校高学年から
不思議の国のアリス 2007.613

 142年読み継がれる魅了

 子どもの本屋を開店して間もなくの頃、どんな本揃えをするかで、いろいろな情報に振り回されて、迷っていた時期がありました。その時、ある方から、「とにかく古典といわれるものを読んでみなさい」といわれたことがあります。古典とは、いつまでも変わらないもの、決して古くならない物のことを言うのだということを、一冊読むたびに実感し、置くべき本が見えてくるという、目から鱗が落ちるような経験をしたことがあります。

『不思議の国のアリス』は、イギリスの児童書の古典中の古典で、題名を知らない人はまずいないと思います。あるセミナーで、この作品を読んで、抱腹絶倒し、出版以来142年たっても読み継がれている所以をなるほど、と実感しました。

子どもの頃、途中で投げ出した記憶があるのですが、へんてこな理屈や、言葉の取り違え、だじゃれなど日本語に翻訳するには大変難しいと思われる作品で、今にして思えば、翻訳がまずかったのかもしれません。それにしても荒唐無稽な夢の中の出来事を、こんなにも現実味をもって描けたのは、数学者である著者の緻密さのせいでしょうか? 




ルイス・キャロル作
脇明子訳
岩波書店
672円

小学校中学年から
ペニーさん 2007.6.6

 貧乏なペニーさんは、なまけものだけど、愛すべき七匹の動物たちをやしなうために、老骨にムチ打って工場で働いています。ある日、いたずらもののオンドリに面倒を起こさないように言いつけて、工場に出かけるのですが、留守中、他の動物たちをそそのかして隣の畑に侵入し、メチャメチャに荒らしてしまいます。怒った隣のおじさんがやってきて、その弁償としてつきつけた条件は、ペニーさんにとって、どうにもならないものでした。

「もりのなか」や「わたしとあそんで」「海のおばけオーリー」「ジルベルトとかぜ」など数々の優れた絵本を描いたマリー・ホール・エッツは、病気の夫を抱え、自らも不治の病とたたかいながらの生涯だったと聞きます。

エッツ自身、ペニーさんのようなどうにもならない経験をしたのかどうかはわかりませんが、動物たちの活躍で思わぬハッピーエンドになったように、苦しみを昇華して、彼女がハッピーエンドを迎えたことを信じたいのです。どこまでも暖かくそして繊細なこの作品が、出版後72年を経て私たちのこころに響くのですから。




マリー・ホール・エッツ作
松岡享子訳
徳間書店
1,365円

小学校低学年から
海べのあさ 2007.5.30

 心に吹き込む初夏の風

 好きな絵本を五冊挙げよと言われたらまちがいなく入る絵本です。今まで取り上げなかったのは、実は、この絵本を読みたくなる初夏のこの季節を待っていたからです。

サリーはグラグラし始めた歯に驚きます。そして大人の歯が生える前触れと知り、そのよろこびを海岸にいるお父さんに知らせようと駆けつける途中、その歯をなくしてがっかりするのですが―。サリーやその家族、それを取り巻く人々、そしてもう一つ、さわやかな初夏の海辺の風が、読む者の心にまで吹き込んでくるような絵本です。特に歯の抜け替わる就学年前後の子どもたちには身につまされるようです。

二十年前の六月、突然という感じで、この絵本の訳者、石井桃子先生が私どもの店にお越しになりました。山の中の私の生まれ故郷におつれしたとき、谷川の古木に絡まって咲いていた白い花をみあげて「あ、テイカカズラですね?」とか、「これはマタタビでしょう?」などの質問にあわてたものです。西原村の大切畑のダムのまわりを散歩していて、初夏の風に吹かれている風車のようなテイカカズラの白い花に、ふとそのことを思い出しました。




マックロスキー作
石井桃子訳
岩波書店
1,785円

5歳くらいから
太陽の東 月の西 2007.5.23
 
 力強く明るい民話

 ヨーロッパの北のはずれにある山と森と湖の国ノルウェーの民話です。力強く、底ぬけに明るいお話は、この国の厳しい自然環境に対する人々の、生きるための、大きな力になっているのかも知れません。表題の「太陽の東月の西」は、魔法でシロクマに姿を変えられた王子との関係を取り戻すべく、労苦をいとわぬ女の子の旅のお話です。おなじ北欧の民話だからでしょうか、アンデルセンの「雪の女王」にも一脈通じるところがあるような気がします。 

その他にも、読んでいて思わず吹き出しそうになる、「家事をすることになっただんなさん」や、快哉を叫びたくなる「地主のはなよめ」など18のお話が収録されています。

ある図書館での連続講座で紹介したのですが、ちょうど品切れで、申し訳ない思いをしました。その後さいわいなことに復刊されましたが、題名が地味なことと返品のきかない出版物であることから、書店ではほとんど手にすることが出来ません。そんなふうにして、本当に優れた本が消えていくことが残念でたまりません。 




アスビョルセン編
佐藤俊彦訳
岩波書店
714円

読んであげるなら小学校中学年から
ちやぼのバンタム 2007.5.16


 果敢に挑む頼もしさ

 近くに養鶏場があって、夜が明ける前から雄鶏の時を告げる声がきこえます。孫がヨチヨチ歩きの頃は、ハコベなどの青草を金網の目から差し入れしたものです。

 私の知る限り、雄鶏は「コッ、コッ、コッ」と雌鶏を呼び集めその貴重なえさを振舞うというのが習性でした。そのことを通りかかった飼い主に確かめると、「いや、今の雄鶏はそうでもなかですばい。よう見てみなっせ、横からサッと持ってはっていくとがおっとですたい。そぎゃん雄鶏はやっぱもてんですな」そう言われて観察していると、なるほどみんなからつつかれてお尻の羽根がなくなった雄鶏が遠慮がちにおこぼれを頂戴しては、片隅で食べています。

さてこのお話のちゃぼのバンタムは、いつも立派なトサカをもった雄鶏にいじめられてばかり。時をつくろうとすると、追いかけまわされ、大好きな雌鶏のナネットには近寄ることもできません。そんなある日、キツネがやってきてナネットが襲われます。その時、雄鶏は逃げてしまいますが、ちいさいバンタムは果敢にキツネに挑みます。

「やっぱりこうでなくっちゃ」とスカッと溜飲の下がる一冊です。




ルイーズ・ファティオ作
ロジャー・デュボアザン絵
乾侑美子訳
童話館出版
1,365円

4歳くらいから
ベンジーのいぬごや 2007.5.9


  随所に犬への深い思い

 学生時代の友人が、17年間飼っていた愛犬に死なれ、かなり重度のペットレス症候群にかかっているようです。学生時代は動物嫌いの感があった友人のそのようすに、ちょっと驚きながら、その昔、手のひらで水浴びをするほど馴れていた文鳥をネコに食べられたときの悲しみを懐かしく思い出しました。

子どもたちのベッド寝ていた犬のベンジーは、もう大きくなったのだからと、犬小屋をつくってもらいましたが、気に入りません。寝るところを探しまわったあげく、ようやく、また子どもたちのベッドで寝かせてもらえることになる、ハッピーエンドのお話です。

作者のグレアムさんは、犬が大好きなのでしょう、夫ジーン・ジオンとの共作「どろんこハリー」をはじめ犬を主人公にした絵本をたくさん手掛けています。随所に犬に対する深い思いが感じられ、犬の目の表情一つにも、その観察眼の確かさがうかがわれます。

動物好きの我が家の二男が気に入って企画編集した絵本ですが、その作品を通じて、海の向こうの作者グレアムさんとも意気投合しているようです。




マーガレット・ブロイ・グレアム作
わたなべてつた訳
アリス館
1,470

3歳くらいから
おおきな木のおくりもの 2007.5.2


 「命の循環」を描く

 朝の目覚めがとてもよくなりました。窓をあけると、少し冷たい空気が流れこみ、木々の緑がいっせいに目にとびこんできます。この季節、もうじっとしてはいられません。このところ、すっかり庭仕事にはまりこんでいます。物言わぬ植物との対峙に、心のやすらぎを感じるのは、歳のせいでしょうか?

「おおきな木のおくりもの」というこの絵本、百年以上も歳を経たナラの木が、やがて枯れてゆき、そのあとにその子どもが育つという命の循環を描いたものです。元気な時も、弱りながらも、そして倒れてからも、いろいろな生き物たちの命を育む一本のナラの木に、生きていくことの真の意味を見るような気がしがします。声高に自分の存在を誇示し、代償を求める人間と比べてなんという違いでしょう。

我が家にも、15年まえに水前寺から移植した大きなヤマモミジが、目も覚めるような若葉をひろげています。そして、何本もの子どもの木が育っています。思わず畏敬の念で見上げてしまうこの頃です。




アルビン・トレッセルト作
アンリ・ソレンセン絵
中井貴恵訳
あすなろ書房
1,575円

5歳くらいから
おおきなのはら 2007.4.11


 陽気楽しむ気分に

 おおきな のはらの ひあたりの いい すなちに かめの おかあさんと、こがめが一ぴき。「あなをほってごらん」とおかあさん。「あなを ほるから みててね」と子がめ。あなを ほったら、すなちは ぽかぽか いいきもち。

おおきな のはらの くさの なかに きつねの おかあさんと、こぎつねが 2ひき。

「はしってごらん」と、おかあさん。「はしるから みててね」と、2ひきの こぎつね。

はしったら、くさの なかは すうすう いいきもち。

といった具合に、大きな野原でのいろいろな動物の親子の坦々とした日常を描いた絵本です。それぞれの動物のようすが、動物の生態を描かせたら右に出るもののいない、ロジャンコフスキーの素晴らしい挿絵で描かれていて、それぞれの動物といっしょに、春のぽかぽか陽気を楽しんでいるような気になります。

 いつもより早い春の到来。そして、あっというまに真夏を迎えるここ熊本。短い春のこの季節をこそ阿蘇の「おおきなのはら」で楽しみませんか。





ラングスタッフ作
ロジャンコフスキー絵
さくまゆみこ訳
光村教育図書
1,365
3歳くらいから
日本昔話百選 2007.4.4

 子どもに聞かせたい

 子どもの頃、日本の昔話をあまり聞いて育たなかった私は、昔話の本当の魅力を知りません。子どもの本屋を始めてまもなくの頃「子ども文庫の会」のセミナーで軽く流した程度に勉強はしたのですが、やはりピンときませんでした。残酷さや、荒唐無稽なところに気がいってしまうのです。

 けれども、子どもたちのようすを観察すると、どうやら昔話は子どもにとって、大変魅力のあるものらしいのです。改めて読み直して、その魅力は、人生には、不条理なこと、残酷なことがいっぱいあるけれど、「正直に」「辛抱強く」「明るく」「優しく」生きていけば必ずうまくいく、ということを頭からではなく、心底から子どもたちに信じさせてくれるところにあるのではないかと思いました。

日本各地の昔話100編を収めたこの作品は、子ども向けには、編集されていませんので、大人が読んであげるしかないのですが、夢を現実のものとして受け止められる柔らかい心を持った就学年前後こそ、一番いい時期なのではないのかと思います。いまさらながら「私もその頃、こんな昔話を聞きたかった」と残念に思うのです。




稲田浩二・稲田和子編著
三省堂
1,785円

就学年前後
ふわふわしっぽと小さな金のくつ 2007.3.28


 子育てに疲れたら

  白いふわふわのしっぽをもった茶色の田舎うさぎが、あこがれのイースター・バニーになるために頑張るお話です。世界中で5匹しかなれないイースター・バニーになるには、ほかのうさぎが一年かかってもやれないほどの仕事を一晩でやり遂げなければなりません。年頃になって21匹もの赤ちゃんを産んだふわふわしっぽ、こうなってはとても無理と思うでしょう。ところがその仕事をやりとげたばかりでなく、そのうち一番素晴らしい働きをした一匹に与えられる、金の靴まで手に入れてしまうのです。

 その秘密は、ふわふわしっぽの子育てにありました。こう書くと世のおかあさま方は、大変興味をそそられるかもしれませんが、私をはじめとするなまけもののおかあさま方には、ちょっと耳の痛いお話かもしれません。以前、ある方が、子育てに疲れたおかあさま方へのプレゼントにこの絵本を数冊買っていかれ、とても好評だったとうかがいました。

春爛漫、まもなくイースター(キリストの復活を祝うお祭り・春分の日のあとの満月の次に来る日曜日)。けなげな子うさぎと素敵なふわふわしっぽに元気をもらえるはずです。




ヘイワード作
マージョリー・フラック絵
パルコ出版
1,631円

5歳くらいから
かものプルッフ 2007.3.21


 動物の生態とドラマ描く

  庭から見下ろす周囲1kmほどの人工池に数年まえから、カモが渡ってくるようになりました。はじめのころは数羽だったのが、今年はどういうわけか100羽近くにふえました。そろそろ北に渡るのか、身を軽くするために田んぼの青草をさかんについばんでいます。

 この絵本の帯に「生きものの生態とドラマを、清冽に描く5連作」とあるように、野うさぎ、りす、かわせみ、くま、そしてかもの生態とドラマがみごとに描かれていています。

子どもたちは図鑑が大好きです。我が家の孫もご多聞にもれず、図鑑に夢中です。私自身バラの図鑑などを飽かず眺めてしまう方ですから、その気持ちはよくわかります。図鑑によっての知識ももちろん大事だと思いますが、そこに優れたドラマが加わることによって、それぞれの生きものに対する思いは比べようもないほど深まるような気がします。

 我が家の孫も昼間の疲れで途中寝てしまっても、次の日に続きを読んでもらうというふうにして、この長い絵本を楽しみました。大人の私にはよく分からないのですが、子がもののプルッフが、大きくなって、お父さんと対面するところがとても印象深かったようです。




リダ・フォシェ作
ロジャンコフスキー絵
石井桃子訳
童話館出版
1,500円
小学校低学年から
やかまし村の子どもたち 2007.3.14


 6人の子の日常を描く

 つい先ごろ生まれてフニャフニャ言っていたと思っていた孫が、この春小学校に上がります。先日は4キロ近くもある通学路を歩く、体験通学も終えました。3月生まれの孫にとって、かわいそうな気もしますが、体を鍛えるのにいい機会なのかもしれません。

 やかまし村(と言っても3軒の家しかないのですが)の6人の子どもたちの日常を描いたこの作品、ちょっと早いかなと思ったのですが、6歳になったばかりの孫が、すっかりはまりこんで、今は、2巻目の『やかまし村の春・夏・秋・冬』を読んでもらっています。自然に恵まれた周りの環境がそっくりなのも、その一因なのかもしれません。

 私どもの集落も小学校に通う子どもたちが数人で集団登校します。授業に間に合うためには朝7時に家を出るというところも同じで、しっかりと我が身を重ねて楽しめるのでしょう。終始ケラケラと笑いながら楽しんでいる孫に「どこが面白かった?」と聞いたところ、それと知らずに登校した子どもたちが、病気で寝込んでいる先生のお世話をするところ、と答えました。出版から42年を経て、今なお根強い人気のある作品です。





リンドグレーン作
大塚勇三訳
岩波書店
1,980円

小学校低学年から
ちいさなヒッポ 2007.3.7


 自分の母親を重ねて

 ヒッポはお母さんカバといつもいっしょです。昼間は、ひなた水にうかんだり、砂地に重なりあったりして眠って過ごすのです。さて、ヒッポがカバの言葉を覚える時がきました。お母さんのあとについて懸命に練習します。そのようすがなんとも微笑ましいのです。

 ある日お母さんが眠っているとき、ヒッポは、ひとりで上のほうへ行きました。そのとき、金緑の目をしたワニがしのび寄ってヒッポを襲います。ヒッポは、かねて練習したとおり「グッ グッ グワオ!たすけて!」と叫ぶのです。そこで、お母さんカバはガバッと起き上がり、ワニをくわえてほうりなげ、無事助かるというお話です。

『三びきのやぎのがらがらどん』でおなじみのマーシャ・ブラウンの作品ですが、木版画の挿絵も目をみはるほど美しく、お話も盛り上がりがあって、子どもたちは大好きです。

 あるお子さんが、お母さんに叱られた夜は、必ずこの絵本を持ってきて、読んでほしいとおねだりする、という話を聞いたことがあります。頼もしいカバのお母さんに自分の母親を重ねて、仲直りした後、安心して眠りにつきたかったのでしょう。




マーシャ・ブラウン作
うちだりさこ訳
偕成社
1,260円

3歳くらいから
クマのプーさん プー横丁にたった家 2007.2.28


 読後に温かさ残る作品

 来店された若い女性に「あら、クラシックプーって本もあったのですね、私このクラシックプーの絵が好きで、ノートを持ってるんですよ」と言われたことがあります。つまり、プーさんといえば、ディズニーの作品で、A・A・ミルン作、E・H・シェパードの挿絵による原作は、クラシックプーとよばれていることをこの時はじめて知りました。  

我が家の長男が中学2年生の夏休みの宿題で、感想文にこの本をとりあげたらクラスの友達のみならず担任の先生からも笑われた、という苦い経験をしたことを知った後だったこともあって、「これは、クラシックプーなんかではありません。本物のプーです」とつい強い口調で言ってしまいました。

 江戸の仇を長崎でとばかりに息子の無念をはらすべく、ことあるごとに、この本のすばらしさを説いてまわっているのですが、いまだにA・A・ミルンのプーさんをご存知でない方がたくさんいらっしゃるようです。

 読んであげると必ずあちこちからクスクスと笑いの起きるこの作品、読後なんともいえぬ温かさの残るこの作品こそ、ぜひぜひ原作で読んで欲しいと願わずにはいられません。




A・A・ミルン
石井桃子訳
岩波書店
2,100円

小学校中学年から
ムギと王さま 2007.2.21


 濃い闇を照らす光

 つい最近、「あなたが選ぶ児童書ベスト10を教えてください」という、ある雑誌の取材を受けました。いつものことながら、この手の質問は大変困ります。ある作品を読んで感動したらそのときは、これが一番おもしろいと思うのに、また別の作品を読むとやっぱりこれも面白いと思う。そういう本がいっぱいあって、とても10指に収まらないからです。

 けれどもこの作品だけは、いかなる浮気心が起ころうと揺るがないという一冊が、この『ムギと王さま』なのです。470ページにもおよぶ分厚いこの本は、27の短編からなるもので、見かけによらずとても読みやすい作品なのですが、読むたびに新しい発見や感動を覚える奥深さに驚きます。

あるセミナーでこの本を読んだ時、店の経営がとても大変な時でした。傍目には、そんな時、本など読んでいる場合ではなかろうと思われたかもしれません。けれども私にとってはこの本があったからこそ、あの苦しい時を乗り越えられたと思うのです。苦しいときほど力づけてくれる、つまり闇が濃いほど明るさを感じさせる、光のような本でした。




エリナー・ファージョン作
石井桃子訳
岩波書店
2,730円
小学校高学年から
はるがきた 2007.2.14


 一昔前の日常を描く

 色をお見せできなくて残念ですが、表紙は野原の若草色のなかで子どもたちが春の到来を喜んで輪になっておどっているようすが描かれています。残念ながら都会の子どもたちのみならず、このように春を満喫することはできなくなっているようです。

 花が咲き、鳥がさえずり、動物たちも喜んではねまわる中での生き生きとした子どもたちのようすは、一昔前ならあたりまえの日常だったはずなのですが。

 それではもう、今の子どもたちは、こんな生活に興味を示さないかと言えばそんなことはありません。てのひらに乗るような小型のこの絵本、子どもたちは大好きで、値段の安さも手伝ってか、うっかりするとすぐになくなってしまいます。

 この絵本、このほかに『たのしいなつ』『いまはあき』『ふゆがすき』の3冊があって春夏秋冬がそろっています。今年は、というより年々春の到来が早くなり地球温暖化の影響かと思うと素直に喜べないのが残念です。この絵本の中の子どもたちのように四季それぞれを体中で楽しめるような環境を守るためには―と考えてしまいます。




ロイス・レンスキー作
さくまゆみこ訳
あすなろ書房
650円

3歳くらいから
どうしてかわかる? 2007.2.7

 ちょっとした息抜きに

 もともと昔話には、なぞときの要素が含まれたものがたくさんあります。この本は、世界各国の昔話を題材にした、なぞときの本で、最初に昔話があって、なぞなぞがだされ、つぎのページで種明かしされるという形で、全部で14の昔話となぞなぞがあります。

 たとえば、一人の子どもを自分のものにしたがる二人の母親のうち、どちらが本当にふさわしいかを判定する時、両腕を二人に引っ張らせて、「自分のほうに引き寄せたものを勝ちとする」と言われたものの、痛がる子どもの腕を放したほうに軍配を上げる話(チベットの民話から)など、「なるほど!」と、話そのものも楽しめて、ちょっと得をしたような気になります。

 子どもたちはなぞなぞ遊びが大好きです。けれども、これは!というなぞなぞの本がなく困っていました。ある学校の司書の方にためしてもらったところ大うけだったと報告をいただきました。ほかにも『あたまをひねろう!』『やっとわかったぞ』の2冊があって、ちょっとした息抜きや、学校での読み聞かせにもおすすめします。




ジョージ・シャノン作
福本友美子訳
晶文社
1,575円

小学校低学年から
ウイリアムのこねこ 2007.1.31
 
 優れた話運びと絵

 ネコが大好きで、いつもネコを飼っていました。熊本に来て、最初に飼ったのは、息子が拾ってきたトラ毛のネコで、名前をエルマーとつけました。ところが、このネコが、あいにくと雌ネコで、たまりかねて避妊手術をするまで、毎年4月に4匹の子ネコを4回産みました。ネコのお産に立ち会って、感激のあまり涙した息子たちの体験は、とてもよかったのですが、引き取り手探しには苦労しました。


 この絵本のウイリアムが飼うことになった子ネコのピーターも、実は雌ネコでした。このお話では、雌ネコだったからこそハッピーエンドになるのですが、雌ネコにでもおかまいなしにピーターと名づけてしまうウイリアムに、かつての息子たちを重ねてしまいます。

 子どもたちを納得させる優れた話運びもさることながら、マージョリー・フラックの絵の素晴らしさには感心します。文中の挿絵ばかりではなく、見返しにもウイリアムが出会った5月から、つぎの年の4月までのピーターの成長するようすが、みごと描かれているのです。それはまさにネコのことをほんとうに知る人にしか描けない絵なのです。




マージョリー・フラック作
まさきるりこ訳
新風舎
1,365円
4歳くらいから
おへやのなかのおとのほん 2007.1.24

 生活音の心地よさ

 風邪をひいてしまった小犬のマフィンは、外に出ることができません。そこで、家の中の小さいお布団の上にまるくなって目を閉じます。すると、部屋の中のいろんな音が聞こえてきます。ほうきで床を掃く音、テーブルのうえのスプーンをかたづける音、電話の音、そして掃除機の音。二階に寝ているマフィンには、それらの音が小さく聞こえるのです。「しゃっ、しゃっ」など音のところが小さい活字で表記されていて、それがわかります。

 それほどひどくない病気で寝込んでいるとき、熱が下がって、ようやく治ってきたなと思えるようなとき、ドタンバタンとうるさい音は迷惑ですが、部屋の中で聞こえる生活の音は心地いいものです。おふろにお湯をためる「どうどう、ざあざあ、ぼうぼう」という音などが聞こえると、はやく治って入りたいと思うにちがいありません。

 夜になって部屋にぱちんと明かりがともりマフィンは光につつまれます。家族がマフィンのようすを見にやってきたのです。つぎの日、マフィンの風邪が治ったのは言うまでもありません。静かな音とともに家庭の暖かさがしみじみと伝わってくる絵本です。




マーガレット・ワイズ・ブラウン作
江国香織訳
ほるぷ出版
1,365円

3歳くらいから
せいめいのれきし 2007.1.17


 未来信じる喜び表現

 ある小学校の先生から、人間関係で疲れている時、図書館の隅でなにげなくこの絵本を広げて読み終わった時の感想をうかがいました。

「地球上に生命らしきものが誕生しておよそ55千年前、人間の歴史はおよそ25千年前、本当に針の先でつついたほどの短さです。短い人間の歴史の中のほんの一時代に生きている自分、そして、その中のほんのささいな出来事にくよくよするのはバカバカしいと思ったとたん、スーッと体から疲れが抜けたようだった」という感想でした。

 この絵本は、作者のバートンさんが病気療養中、海岸を散歩している時、3億年も前から地球上に存在したという、岩に生えた苔に興味を抱いたのがきっかけで生まれた、と、訳者の石井桃子さんからうかがいました。図書館や博物館に通いつめ8年の歳月を要したこの作品は、単なる科学読み物ではなく、生命の終わりを覚悟した作者が到達した人間の未来を信じる喜びを表現した、すばらしい文学なのです。昨年、ある町の成人式の記念の品として選ばれ、出席できなかった成人までが取りに来るなど、話題になりました。




バージニア・リー・バートン作
いしいももこ訳
岩波書店
1,680円
小学校低学年から
イワンの馬鹿 2007.1.10

 父の理想の生き方

 『戦争と平和』などの長編を数多く残したロシアの大文豪トルストイの民話の一つです。私の父、北御門二郎が、初めてトルストイの民話に出会ったのは、17歳の時でした。太平洋戦争の真っただ中、『人は何で生きるか』という作品を読み、まさに雷に打たれたような感じだったと言います。その後、兵役を拒否し農業者になり、一昨年92歳で亡くなるまで、水上村の山奥で農業を営みながらトルストイとトルストイを通じて知った古今東西の聖賢のとの心の交流を生き甲斐とする一生を過ごしました。

馬鹿のイワンの生き方は父にとっての理想の生きかたでした。もちろんその生きかたがどんなに難しいかも、いやというほど思い知ったに違いありません。けれども、そのおかげで、結果的には本当に充実した一生だったと思います。昨年、今だからこそ、この作品を子どもたちにも読んでほしい、という出版社の希望で難しい漢字を仮名にしたり仮名をふったりして全5冊の民話集ができあがりました。生前、父が、「何か一つトルストイの作品を」と問われて「まず『イワンの馬鹿』を」と言っていたことを思いだします。




レフ・トルストイ作
北御門二郎訳
あすなろ書房
945円

小学校高学年から
百まいのドレス 2006.12.20


 いじめをなくす一冊

 以前、いじめ問題で困っていらっしゃる中学校の先生にこの本をお薦めして、大変喜ばれました。実を申しますと、そんな形でお薦めするのは気が進まなかったのです。「いじめ防止に役立つ本」というふうな読まれかたをされると困ると思ったからです。

主人公のマデラインは、この物語の中で、いじめられるほうでもなければ、いじめるほうでもありません。人気者で活発なペギーが、貧しいポーランド移民のワンダをからかうのを見て、ひそかに、もうこんなことやめてくれればいいのにと思いつつも、そばで見ているほうなのです。そして、ある日、突然引っ越してしまったワンダの残していったものを見て、深く後悔するのです。

 ささいなことから始まるいじめ、そしてだれでもが加害者になりうる危うさ。けれども、なんというすばらしい終わりかたでしょう。 

 『百まいのきもの』という題で出ていたものに、石井桃子さんが50年ぶりに、しっかりと手を加えられて生まれ変わりました。矛盾するようですが、読み直してみて、やはり「いじめをなくすには百万言を費やすより、この一冊!」と思ってしまいました。





エレナー・エスティス作
石井桃子訳
岩波書店
1,680円

小学校低学年から
山のクリスマス 2006.12.13

 
 非日常に期待と不安

 子どもの頃、山の中から町の祖父母の家へでかけ、クリスマスを祝っていました。クリスマスツリーに飾られた点滅するあかり、ガラス細工の飾り、吹くと本当に鳴るラッパのおもちゃなど、そして、サンタクロースの格好をした祖父が、大きな袋をかついであらわれて、プレゼントを手渡してくれるころには、胸の高鳴りは、最高潮に達していました。

 主人公ハンシは、逆に町からチロルの山の上にあるおじさんの家でクリスマスを過ごすためにひとりででかけます。日常とちがった生活に飛び込むことは、子どもにとって、わくわくする気持ちと、不安のいりまじった緊張感を感じる出来事のようです。ハンシも、途中、ただひとり残してきたおかあさんのところへ二度と帰れないような気がして、引き返したくなるのですが、帰るころには、山の生活が名残惜しくて泣きたくなるのです。 

1953年に出版以来この絵本しばらく品切れになっていたこの絵本を40年ぶりにある文庫の本棚で発見した時は思わず「あった!」と叫んだものです。

今読み返してみても心温まる非の打ちどころのない一冊だと思います。




ルドウィヒ・ベーメルマンス作
光吉夏弥訳
岩波書店
945円
クリスマス人形のねがい 2006.12.6

 やはり奇跡は起きる

 「運命とか奇跡とかを信じますか?」などと申し上げると、誤解されるかもしれませんが、62年も生きてくると、「ああ、あれは運命だったのだ」とか、「やはり奇跡は起きるのだ」などと感じたことが何度かあります。それは、決まって、なにか大きな困難を乗り越えた時に感じたような気がします。

 クリスマス人形のホーリーが、みなしごの女の子アイビーのものになるまでには、いくつもの困難がありました。けれども、偶然のできごとが重なりあって願いがかなえられた時、これは運命だったのだ、やはり奇跡はおきるのだと深く納得させられるのです。

この物語のもう一つのテーマは、人形と女の子の強いあこがれと願いです。そのあこがれや願いがいくつもの困難をのりこえさせ偶然を必然にかえていったのだと思います。そして、果たして、今、自分は、強いあこがれや願いを持って生きているだろうかと? と考えてしまうのです。

クリスマスにふさわしい絵本をお探しの方に、ぜひおすすめの、とびきりの1冊です。




ルーマー・ゴッデン作
掛川恭子訳
岩波書店
2,100円

小学校低学年から
さとうねずみのケーキ 2006.11.29

 献身的友情 思わず涙

 「どろんこハリー」でおなじみのコンビによるファンタジー。お城ではたらくコックのトムは、ケーキを焼くのがとてもじょうずでした。けれども、見習いのため、お皿やスプーンしか洗わせてもらえません。

 そんなある日、お城の新しい料理長を決める、ケーキコンテストが開かれることになりました。そこでトムは、夜も寝ないでケーキを焼きます。

 トムには、日ごろ小さなケーキを焼いては、こっそりあげているティナという白ねずみのともだちがいます。このティナの献身的な友情で、無事優勝するまでのハラハラドキドキ感は子どもだけでなく大人も思わず引き込まれます。

 私事ですが、我が家の二男は、わたしどもの店においてもらえるような本作りをしたいと、児童書の編集の仕事をしております。この絵本は、その二男が企画・編集したもので、この、原書を読んだとき、ティナの健気さに思わず涙を流したと言います。彼にとっては、甥にあたる、我が家の5歳孫の厳しい審査にも合格したものです。




ジーン・ジオン作
マーガレット・ブロイ・グレアム絵
わたなべしげお訳
アリス館
1,470円
4歳くらいから
15歳の夏 2006.11.22


 馬の繊細さを再認識

 今回は9月末に出た新刊をご紹介します。読み出したらとまらなくなって2巻目の『わたしたちの家』まで一気に読みました。残り3巻の刊行が待たれます。

エイミーは、15歳、わけあって母親とおじいさんの3人暮らし。母親は、精神的、肉体的に傷ついた馬を癒してやるのが仕事。その仕事ぶりは、まさにハートランドの名にふさわしく経営も順調にいきそうになっていたときに、母親の死というとんでもない出来事がおきます。そして、少しずつ悲しみを乗り越えていくエイミーと、それをとりまく人々の関係があざやかに、現実みをもって描かれていきます。

 もうひとつ、この物語で大切なのは、馬と人との関係。扱う人や環境しだいで性格が変わるのは、人間だけではありません。児童文学に限らず人間と動物の関係を描いたものは数多くありますが、特に馬という生き物は、とても繊細だということを改めて再確認しました。

 そういえば、子どもの頃、我が家にコウハという馬がいて、扱いに慣れた叔父のいうことは良く聞いていたのに、百姓になりたての父の言う事を聞かなかったことをふと思い出しました。





あすなろ書房
ローレン・ブルック
勝浦寿美訳
998円
小学校高学年から
まよなかのだいどころ 2006.11.15

 
 日頃の思いを実現

 真夜中に騒がしい音がして目が覚めたミッキーが、「しずかにしろ!」と怒鳴ったら暗闇におっこちて、落ちた所は、明るい真夜中の台所。そこではパン屋さんたちがせっせと朝のケーキを焼いているところでした。

 パン屋さんたちはミルクがなくて困っています。ミッキーは、パンの練り粉で飛行機を作って天の川(ミルキーウエイ)までミルクを取りに行きます。そして、パンの練り鉢に無事ミルクを流し込みます。おかげでパン屋さんは、ケーキを焼くことができました。そこで、ニワトリが鳴き、魔法の時間が終わって、ミッキーはもとのベッドの中「やれやれ ぬくぬく」というお話です。
 
 「パンの練り粉に飛び込む、空を飛ぶ、ミルクのビンに飛び込んでさいごは、そのミルクで、パン屋さんたちを助けてあげる」というふうに子どもたちの日ごろの思いをすべて満足させてくれているようです。

 理屈で考えようとする大人には荒唐無稽以外のなにものでもないように見えるこの絵本、読んであげているときに、腕を広げながら空を飛んだ(?)お子さんがいて驚いたことがあります。





モーリス・センダック
じんぐうてるお訳
冨山房
1,470円

3歳くらいから
ごきげんいかが がちょうおくさん 2006.11.8


 日常のこと 笑いで包み

 がちょうおくさんは、雨靴をさがしていました。いつも置いているはずの所にないのです。さんざん探したあげく、近所のブタさんや、リスさんにも尋ねてみますがだれもしりません。ヒツジさんにいたっては、「お天気なのにどうして、雨靴をさがすの?」とたずねます。「だって、いつ雨が降るかわからないじゃない」と、がちょうおくさん。そしてそのとおり、朝起きてみると雨が降っていました。その日は、どうしても買い物にでかけなくてはならなかったのです。

 家事をすますと、また探しますが、やっぱり見つかりません。雨はますますひどくなります。しかたなく、物置から傘をだして、ひらいたとたん、がちょうおくさんの頭の上に勢いよく転がり出てきたものがあります。なんとそれは雨靴でした。いっしょに入れておくと、雨の時探さずにすむと思ったのです。

 なれないことをして、かえってややこしくなる、よくあることですよね!日常によくあること、あるいは、あっても不思議ではないことを、がちょうおくさんという素敵なキャラクターが、「クスッ!」という笑いで再認識させてくれる素敵な短編集です。




ミリアム・クラーク・ポター作
まつおかきょうこ訳
福音館書店
1,050円

小学校低学年から
三びきのやぎのがらがらどん 2006.11.1

 
 生き抜く喜びに反響

 店においでのほとんどのお子さんが、「あっ、あった、あった!」と手にされる絵本です。

今は、この絵本を子どもの頃に楽しんだ若いお母さん方も、増えましたが、しばらくは、私自身も、一見、残酷ともとれるこの絵本の面白がわからず、首をひねったものです。

 三びきのやぎが、トロルという障害物をのりこえて、やっとのことで山の草場に行くというこのお話、生きるということの厳しさ、それを乗り越えられた喜びは、子どもだからこそわかるのだということがこのごろようやく理解できたような気がします。

 以前、家庭文庫をやっていて、ある施設のお子さんに毎月まとめて本を貸し出していたことがありました。この中で、この『三びきのやぎのがらがらどん』だけが返ってこず、さんざんさがしていただいたところ、あるお子さんの着替えを入れる引き出しの底から見つかったという出来事がありました。その後、その絵本を、そのお子さんに差し上げたと思うのですが、子どもが、隠し持っていたいほど魅力のある絵本は、そうざらにあるものではありません。子どもの本屋をやってい思い出に残った一冊です。




北欧民話
マーシャ・ブラウン絵
瀬田貞二訳
福音館書店
1050円
あかちゃん 2006.10.25

 小さな兄妹の心表現

 お客さんの中で、たいへん多いのが、赤ちゃんをつれたおかあさんです。はじめてのお子さんの場合はなおのこと「この子のためになることは?」色々考えたすえ「そうだ!絵本がある」というので、おいでになるようです。場面場面を楽しむ物の絵本、音によって引き付ける絵本などはあっても、ストーリーのある絵本を楽しむにはまだ早いようです。

我が家の孫は、上の子が、1歳半の時に次の子が生まれました。2歳の頃、この絵本をなんども読みたがりました。ミルクをあげたり、お風呂に入れる手伝いをしたりする場面と、おかあさんが、赤ちゃんだけをだっこしている絵に「僕は、あかちゃんがすきなときもあれば、きらいなときもある」という文があり、この場面にとても同感したらしいのです。このシリーズは、ほかにも「いぬ」「とだな」「もうふ」「ともだち」「ゆき」など7冊ありますが、短いけれど、媚びたところのない洗練されたストーリーで、子どもたちは飽きずに何度でも楽しむことのできる数少ない絵本のひとつです。




ジョン・バーニンガム作
谷川俊太郎訳
冨山房
630円

2歳くらいから
たくさんのお月さま 2006.10.18


 ユーモアと奥深さと

 病気になったお姫さまを元気づけるために、王さまは、何でも望みのものをあげようと言います。するとお姫さまは、お月さまがほしいというのです。そこで王さまは、つぎつぎと、いろんな人に命令します。けれども、かしこい大臣も、魔法使いも、数学の大先生も願いをかなえることができません。

 最後に道化師を呼んで、「どうせおまえなんぞにできることはなかろうが」といいながら気慰みにリュートをひかせます。ところがそれから思いもかけない展開になるのです。

道化師は、既成のものごとの見方、捉え方を、おどろくようなやりかたでぶち壊してくれるのです。

思わず吹き出さずにはいられないユーモアと、奥深さを、両方備え持ったこの絵本、お月さまの美しい秋の夜長に、ぜひ、じっくりと楽しんでいただきたい絵本です。ルイス・スロボドキンの一見地味な挿絵も、読むほどに、このお話に深い味わいを与えています。




ジェームズ・サーバー文
ルイス・スロボドキン絵
なかがわちひろ訳
徳間書店
1,680円

絵本=6歳くらいから
にぐるまひいて 2006.10.4

 よき時代しみじみと

 10月とうさんは、にぐるまに牛をつなぎ、その年に作り育てたものを積み込んで、市場に出かけます。そして、それを全部売り払うと、家族へのおみやげや、次の年に必要なものを買い揃えて、家族の待っている我が家へ帰るのです。旅の途中の秋の景色など、ハッと息をのむような美しさです。

淡々としたお話ですが、収穫の喜び、家族の待つ家の温かさが、しみじみと伝わってきます。もう帰らない古きよき時代のこの絵本を、今の時代に合わないとなどとは、決して言わせません。これこそ人間の本来の生き方と思わずにはいられないはずです。

先週ご紹介した『大草原の小さな家』のお話の一部を切り取ったような絵本です。それもそのはず、同じ時代を描いた絵本だったのです。二つの作品が、おたがいが、おたがいを深め合う、本どうしも友達だったような気がしてうれしくなりました。

バーバラ・クーニーの挿絵のこの絵本は、1980年にカルデコット賞を受賞しました。




ドナルド・ホール文
バーバラ・クーニー絵
もきかずこ訳
ほるぷ出版
1,470
絵本=4歳くらいから
大草原の小さな家 2006.9.27


 支えあい生き抜く家族

 この作品は、100年以上も前の北アメリカの開拓者一家の物語です。大吹雪、イナゴの大群、大嵐など自然の脅威に脅かされながら、ぎりぎりのところで生き抜く家族の波乱万丈の生活が、目に見えるように描かれています。

 けれども決して暗くないのは、この作品の中心に家族がお互いを思いやり、支えあい、あきらめず、信じあって生き抜いている姿があるからだと思います。

台風13号で宮崎などでは大変な被害が出てしまいました。おこがましいかもしれませんが、こんな時だからこそ「頑張って生きてさえいれば、きっと未来がある」いうこの作品のメッセージを、多くの子どもたちに送りたいのです。

 この作品がとてもリアルなのは作者自身の体験をもとにした自伝的作品だからなのでしょう。

 このシリーズは出版社を変えて全部で9巻出ています。一番ポピュラーな2巻目を紹介しましたが、できれば、前奏ともいえる1巻目の「大きな森の小さな家」もお読みになることをお薦めします。





ローラ・インガルス・ワイルダー作
恩地三保子訳
福音館書店 1680円
読物=小学校高学年から・読んであげるなら低学年から・価格の安い文庫本もあります。
ロバのシルベスターとまほうの小石 2006.9.18

 親子のうれし涙 感動


 ロバのシルベスターは、いろいろな小石を集めるのが好きでした。ある日、もえるように真っ赤な小石を見つけます。それは、まほうの小石で、その小石を持って願いごとをするとなんでもかなうのでした。

 家に帰る途中、ライオンに出会ったシルベスターは、思わず自分を岩に変えてしまいます。岩になったシルベスターは、どうすることもできません。おとうさんもおかあさんも、村中の犬までも探しますが見つかりません。

秋が来て、冬が来て春になります。お父さんとお母さんは、気をとりなおそうとピクニックに出かけます。そして、とある岩に腰掛けます。ここからの急転直下の結末は読んでのお楽しみとしておきましょう。

大人が子どもを、逆に子どもが大人をといった悲惨な事件はどうして後を絶たないのでしょう。少なくともシルベスター親子のうれし涙に感動した人の間ではこんなことは絶対、絶対起きないと信じたいのです。




ウイリアム・スタイグ作
せたていじ訳
評論社
1365


時間=15分
絵本=4・5歳くらいから
あくたれラルフ 2006.9.11

 わんぱくが改心した?

 セイラの猫ラルフは、大変なあくたれ猫で、セイラや家族の嫌がることばかりします。いっしょに行ったサーカスでもさんざん悪さをして置き去りにされたラルフは、やっとの思いでセイラのところに帰り、もう二度と悪たれまいと思うのですが、さて?というお話。

 十数年前、近所に四歳ぐらいの、腕白坊主がいました。時々やって来て、狭い店の中を走り回り、本は投げ出し、あげくの果ては、大事な我が家の子猫をバケツの水に投げ込むという始末。どうにも手が着けられなかったのですが、この絵本を読み出したとたん、静かになったのです。その夜、その子のおかあさんが「うちの子が始めて絵本が欲しいと言いました」とお買い求めになったのが、この絵本です。

 つい先頃、そのおかあさんがみえて、今は当時とはうってかわっておとなしい大学生と聞きました。そしてある真相が


 子猫をバケツに投げ込んだのは、「犬は犬掻きだけど猫は?」という一緒にいた、優しげなお姉さんの入れ知恵だったとか!




ジャック・ガントス作
ニコール・ルーベル絵
石井桃子訳
童話館出版
1,575円

絵本=4歳くらいから
床下の小人たち 2006.9.6

 小人になって長い旅

 この作品は『野に出た小人たち』『川をくだる小人たち』『空をとぶ小人たち』と続くファンタジーの一冊目です。読み進むうちにファンタジーということをすっかり忘れてしまいます。

 ポッドとホミリーと一人娘のアリエッティの三人は人間の世界から、必要なものを借りながら生きていく小人の家族です。人間に姿を見られるわけにはいかないのです。見つけられたらどうなるかは、わかりきっているからです。始めはケイトという人間の立場で読んでいたのに、すぐに三人の小人の家族とともに長い旅に出てしまいました。

優れた作品はファンタジーに限らず、自分をその主人公に重ね合わせられる力がなくてはなりません。まさにその代表的な作品と言えるでしょう。

 『野に出た小人たち』から野育ちの魅力的な少年スピラーも加わって、あっというまに最後まで読み通しました。そして、読んだ後に深い満足感が残ります。子どもだけのものにしておくにはもったいない作品です。(価格の安い文庫本もあります)
 




メアリー・ノートン作
林容吉・訳
岩波書店
2,310円


読み物=小学校高学年から
木はいいなあ 2006.8.30

 木とすばらしい生活

 木の上から平然と見下ろす猫と、それに向かって吠えている犬、そばには小さな苗木に水をやっている女の子。もうそこで、ストーリーは始まっているのです。


 「木がたくさんあるのはいいなあ。木がそらをかくしているよ。」そのページの涼しげなこと、ほんとに「木はいいなあ」と思ってしまいます。

 14年ほど前に市内からここ西原村に引っ越してきたとき、夏の快適さに感動したものですが、今はそうはいかなくなりました。夏場のカンカン照りにはお手上げです。

 ところが、同じ村のなかでもまわりを林に囲まれた近所の家では気温が3度も違うのです。おそまきながら落葉樹を何本か植えました。ケヤキやクヌギは、ずいぶん大きくなって陰を作ってくれるようになりました。

 この『木はいいなあ』は、もちろん、夏場の木陰のありがたさだけを描いた絵本ではありません。思いもかけぬ「木」とのすばらしい生活がシーモントの挿絵のおかげで生き生きと伝わり、1957年コルデコット賞を受けています。





ユードリイ作
シーモント絵
さいおんじさちこ訳
偕成社
¥1050

絵本=4歳くらいから
時間=5分
ぐらぐらの歯
きかんぼのちいちゃいいもうと その1
2006.8.23

 利かん坊の心理とは

 我が家には、5歳と3歳の孫がいます。お兄ちゃんは、幼稚園に入園してしばらくは「ママがいいー、ママがいいー」と泣いてみんなを困らせました。

 一方、朝夕の送り迎えや、行事のたびにその幼稚園で遊んでいた妹は、勝手知ったる我が家とばかりに張り切って登園。しばらくは新入園児の部屋に荷物を置くと、さっさとお兄ちゃんの部屋に移動して、お昼も、おやつもそこで食べるという、つわもの振りを発揮していたようです。家ではいっしょに遊ぶのになぜ悪いというのが言い分だったのでしょう。


 お姉ちゃんの目から見たきかんぼの妹を描いたこの作品、思わず孫の兄妹関係と重ね合わせて「そうだ!そうだ!」と膝をたたきたくなります。どうしようもなくみえる、きかんぼのいもうとの行動の裏にあるものを、しっかりと見て取った、作者の慧眼に頭が下がるのです。

 そして、今日もさんざん周りを困らせた、きかんぼの幼い子どもが、すやすやと眠っているのを見るような、そんな気にさせる読み物です。続編もあります。





ドロシー・エドワーズ作
渡辺茂男訳
福音館書店
1,155円

読み物=小学校低学年から
すばらしいとき 2006.8.16

 自然の価値 伝えたい


 4
人の家族が、島ですごしたひと夏のできごとを描いた絵本です。ページをめくると、時間を追って変わる空気の変化がその色使いでみごとに描かれ、そこで遊ぶ子どもたちの楽しさが伝わってきます。

 けれども自然は、優しいばかりではありません。嵐がやってくるのです。嵐の前の静けさ、そして、家族でその嵐をやり過ごし、翌朝、倒れた大木の後から、先人が残した貝塚を見つけます。

 作者のマックロスキーは、実際に島での生活を送ったことがあって、その観察眼が生かされているのはまちがいがありませんが、それだけでなく、人は到底かなうべきもない自然の一部であること、その一方でその自然のすばらしさを、伝えたかったのだと思います。

 この絵本は、一見地味で、坦々としたストーリーのせいか、なかなか手に取ってもらえません。

おかげでこの絵本は、限定出版で残り少ないとのことでした。優れた本がなくなるのは、買い手のせいもあることを知って欲しいと思うのです。




ロバート・マックロスキー作
渡辺茂男訳
福音館書店
1,575円


時間=20分
絵本=5歳くらいから
くんちゃんのもりのキャンプ 2006.8.10

 寄り道や失敗で育つ

 5歳の孫が、はじめてのキャンプにでかけました。あいにくの雨のおかげで、急遽、幼稚園でのお泊りキャンプになってしまったのですが、帰ってきていろいろと報告する姿が、急に大きく見えました。はじめて親元を離れての一夜は、こんなにも子どもを成長させるのかと驚きました。

 こぐまのくんちゃんと、いとこのアレックは、キャンプにでかけます。途中くんちゃんは、寄り道をしては、こまどりや、あひるや、かわせみなどと言葉を交わしつつ歩いてゆきます。

 そして、目的地に着くと、こまどりや、あひるのやり方で、寝床を作ったり、泳いだりしようとしますが、失敗してしまいます。けれども、帰り道、そのこまどりや、あひるや、かわせみのおかげで、迷わず、無事、家に帰れたというお話です。

 寄り道や、失敗も、無駄ではなかったのですね。「子どもたちを長い目で見る」ことは、大切とわかっていても、なかなか難しいものです。失敗を恐れるのは、実は、大人だけかもしれません。





ドロシー・マリノ作
まさきるりこ訳
ペンギン社
¥998
時間=7分
絵本=4・5歳くらいから
こぎつねルーファスのぼうけん 2006.8.6

 ほほ笑ましく、温かく


 夏休み真っ只中、海へ山へと心もはずむ子どもたち。一方、時間にとらわれず本を読むには、またとない機会でもあります。ここにとりあげました「こぎつねルーファスのぼうけん」は、ファンタジーの代表作「時の旅人」などで知られる、没後30年を迎えたイギリスの女性作家の作品です。開店以来四半世紀、店の一隅からなくなったことがありません。

 みなしごのこぎつねルーファスは、アナグマのおかあさんに拾われます。冒険心旺盛なこぎつねの、やんちゃで、のびのびとした様子と、それを取り巻くアナグマ一家の関係が、微笑ましく、読む者の心を温かくしてくれます。

 この作品を読む人の心を必ずといってもいいほど魅了するもう一つの理由に、作品の背景である自然描写の素晴らしさがあると思います。そしてそれは、作者が生まれ育った、田舎での生活体験があったればこそなのでしょう。先日、この本をお買い上げいただいた方から、「ルーファスに出会えて、とても幸せです。」というお便りをいただき、私も幸せな気分になりました。





アリソン・アトリー作 
石井桃子訳 
岩波書店 
¥1050 
時間=25分 
読み物=6歳くらいから