台風18号と「すばらしいとき」
 台風18号の被害はいかがだったでしょうか。台風には慣れっこになっているはずの、九州女の私でさえも、今度ばかりは、吹き荒れる猛烈な風に、夜中から朝まで、まんじりともできませんでした。庭の草木の心配など通り越して、屋根が飛ばないか、ガラスが割れないか、ただ嵐の過ぎるのを祈るばかりでした。

 子どもの頃、大型台風が来るというので、早々と仕事を切り上げて帰ってきた両親と家族みんなが、早目の夕食をとり、嵐の到来を今か今かと待ったことを思い出します。家族が一つの出来事を、身を寄せ合って待つという日常にあまり無い体験は、子ども心にどこかワクワクするところがあって、むしろ楽しい思い出として、今でもしっかりと残っています。何しろ、夕食のメニューが、硬いクジラの肉のカレーライスだったことさえ、覚えているのですから。


自然の脅威と人間の無力さ 
 ロバート・マックロスキーの絵本に「すばらしいとき」(福音館書店)というのがあります。メイン州のベノブスコット湾の美しい入り江にある小島を舞台にしたこのお話は、普段は静かなこの島に、嵐が来て去るまでの親子4人と、それを取り巻く自然の変わりようをこれ以上の表現はできないほどのすばらしさで描き、1957年にコールデコット賞を受賞しました。

 海と山の舞台の違いはありますが、子どもの頃の思い出としっかり重なって、私の大好きな絵本です。嵐の前の奇妙な静けさとか、嵐の恐さを消すために、家族全員で大声をあげて歌うところとか、あらがいようのない自然の脅威を知る一方で、緊張とワクワクする気持ちとが相半ばした子どもの心を見事に描いているこの絵本は、残念なことにもう手に入りません。

 いつも思うのですが、どうしてこんなに優れた絵本をみんなが手に入れようとしないのか(と言うのは、買わないからなくなる訳ですから)、不思議でなりません。

 マックロスキーの絵本は他にも「海べのあさ」(岩波書店)、「サリーのこけももつみ」(岩波書店)、「かもさんおとおり」(福音館書店)、「沖釣り漁師のバート・ダウじいさん」(童話館出版)などがあります。
ご冥福をお祈りします
 こんなことを書きながら、実は大変心が痛んでおります。いつも私どもから本をお買い上げ頂いている小学校のある不知火町に、台風による高潮が押し寄せ、12人もの方が亡くなりました。その中にその小学校のお子さんがいらっしゃいました。ただただ、ご冥福をお祈りすることしかできません。
(執筆 小宮楠緒 1999年5月)