たくさんのお月さま
 つくつくほうしが盛んに鳴いています。子どもの頃、この鳴き声を聞くとうら悲しくなったのを覚えています。自由気ままな夏休みとの別れと、残りの宿題のことを思うと、罪もないつくつくほうしが憎たらしくなったりしたものです。今でも宿題をあとまわしにする悪い癖はなおらず、何もかも締切り間際に慌ててやる始末で、この癖だけは死ぬまで治らないような気がします。

 ところが、今ではつくつくほうしの声がありがたいこと、草との戦いが峠を越えるという合図に聞こえるからです。それに加えて、ここ阿蘇俵山の麓では、間もなくススキが銀色の穂を風になびかせ、煌煌と輝く中秋の名月がその俵山から登るということになると、たしなむ人であれば、これにおいしいお酒でもあれば言うことなしというところでしょうか。

 子どもの本からはずれてしまいましたが、もちろん読書の秋を忘れていただいては困ります。お酒はほどほどにして、例えばジェームス・サーバーの「たくさんのお月さま」という絵本などいかがでしょうか。「子どもと本」(子ども文庫の会刊)で特集を組まれたこともあるこの絵本は、ユーモアとウィットに富んだお話も抜群ですが、ルイス・スロボドキンの挿絵も魅力的です。

 どこかで見覚えがあると思っていたら、最近岩波書店で復刊していただいた「百まいのきもの」(エリノア・エスティーズ作)の挿絵を描いている人だとわかりました。

 それぞれに違うお話を、スロボドキンの挿絵が、何とも言えない味わい深いものにしています。2冊とも地味な本で、残念なことに、一般の本屋さんの店頭にはほとんど出まわっていません。

 夏の喧騒の過ぎ去った秋の夜長に、ゆっくりと読んでみてください。忘れていた大切なことをきっと思い出させてくれるはずです。
(執筆 小宮楠緒 1999年9月)