「ちいさなヒッポ」と「マリールイズいえでする」
●永遠のあこがれお母さん●
 母親がすぐそばで、繕いものをしているのに、恋しくてしかたがなかったことがあります。ある時父に「すぐそばに、その人がいるのに、恋しかったことある?」と尋ねたところ、こともなげに「そりゃ、あるよ!」言われて、ホッとする一方、大人になっても、まだこんなに切ない思いをするのかと、ちょっとがっかりしたことがあります。

 世のお父さん方には申し訳ないのですが、幼い子どもにとって、母親の存在は特別なもののようです。大人でいえば、恋人への思いとおなじかもしれません。

●仲直りしたい時に読む「マリールイズいえでする」●
 三人の男の子をお持ちのお母さんから伺った話です。昼間、ひどく怒った日の夜、そのうちの一人のお子さんが、必ず読んでほしいと持ってくる絵本が、この「マリールイズいえでする」なのだそうです。

 マリールイズはマングースの女の子です。ある日、さんざんいたずらをして、お母さんにお尻をぶたれ、怒って家出をします。ここで私などとちがうのは、途中でお腹がすかないようにお母さんはサンドウィッチをつくってくれます。宝物の貝殻とそのサンドウィッチを袋に放り込んで新しいお母さん探しの旅に出るのですが、新しいお母さんは見つからず、新しい子どもを捜していた自分のお母さんと出会い、しっかりと抱き合って、萱葺きの小さな家にかえっていくのです。

 絵本を読んでもらったお子さんはそこで、お母さんとすっかり仲直りしてしまうのでしょう。カラリとして、ユーモアたっぷりの絵本です。

●頼もしい「ヒッポ」のお母さん
 かばのヒッポは、生まれた時からお母さんと一緒で、恐いもの知らずでした。ある日、お母さんはヒッポにかばの言葉を教えます。「グァオ、こんにちは!」とおかあさん。「グッ、グァオ、おんにちは!」、「グァオ、あぶない!」「グッ、グァオ、あぶらい!」、「グァオ、たすけて!」「グァオ、たっけて!」という具合です。

 ある日みんなが水の中で昼寝をしている時、ひとりで水面まで泳いでいったヒッポは、危ないところでワニに食べられそうになります。覚えたての言葉で、「グァオ、たすけて!」と叫ぶヒッポの声を聞きつけたおかあさんかばは、ガバッと起き上がり、かけつけると、ワニをくわえてほうりなげます。ヒッポの危機を知って「グァオ、わに!」と叫ぶお母さんかばの、大きなピンク色の口が見開きいっぱいに描かれていて、子どもたちの興奮もここで一気に頂点に達します。

 数年まえ27歳の障害をもった青年が、迷わず手に取られたことがあって、この絵本を心のどこかで幼い子の本だと決め付けていた私は、ちょっと驚いたのですが、考えてみると、頼もしいお母さんへのあこがれは、大人になっても変わらないのでしょう。全くタイプはちがうのですが、魅力的なお母さんと子どもの関係を描いたこの2冊の絵本は、ホッとする結末までぐいぐいと引っ張っていって、どちらも子どもを飽きさせません。

 それにしても、今更ながら、マリールイズのお母さんのように愛情こまやかでもなく、ヒッポのお母さんのように、頼もしくもなかった我が身を反省するのです。
(執筆 小宮楠緒 1999年10月)